辞書をめぐるアンソロジー。大修館書店のPR誌「辞書のほん」に発表された九つの物語に、一つの書き下ろしを加えた。

 執筆陣は小説家だけでなく、詩人・文月悠光や落語家・三遊亭白鳥など様々な言葉のプロたち。物語も、辞書そのものがキーアイテムとして登場する話のほか、仏典の筆写僧が戦国時代に引き起こした大騒動、さらにはコンピューターによる近未来の自然言語処理を扱ったSFのような物語など、バラエティーに富んでいて、読むものを飽きさせない。

「辞書のほん」は豪華な作りのフリーペーパーで人気があった。2015年に休刊し、残念に思っていたところ本書が刊行され、うれしく思う人も多いだろう。辞書あるいは言葉・言語をあらゆる角度から味わうことができる小説集だ。

週刊朝日  2017年6月16日号