ドラえもんと人生を歩み、ライターとしてのエッセンスを学んだと語る著者が、世代論やキャラクター論、藤子・F・不二雄の他の作品との比較など、様々な切り口で『ドラえもん』を考察する。

 本書は、作品への礼賛に終わらず、批判の色も強い。例えば大長編シリーズでは、晩年の作品が精彩を欠いていると指摘し、長編が不得手な作家であると分析する。また、優しげなイメージが定着するのび太について、その人格面を批判し、彼から生まれた「のび太系男子」の悪影響について語る。

 語り口は時に辛辣だが、背景にあるのは作品への強い愛だ。自身ものび太系男子の一人として、作品に通底する「運命の改変」という主題を猛烈に支持する。ドラえもんは本当にいなくても、ドラえもんに「出会えた」幸福をかみしめられる一冊だ。

週刊朝日  2017年5月5-12日号