生前の三島由紀夫と6年間の交流しかなかった詩人が、その死から四十数年の長きにわたって割腹自決の「真相」を問い続ける。なぜ書くのか、どうして書き続けたのか。何を考えて生きていたのか、何を思いながら死んでいったのか。その「謎」に迫ろうとして綴ってきた文章や講演記録をまとめた。

 著者の文章を読む前に、巻末に付されている日本近代文学研究者・井上隆史の丁寧な「解説」を読んでおくと、内容の理解に役立つだろう。三島は自己コンプレックスのためか、常に自身の存在を希薄なものと感じていた。その解決策として小説を量産し、あらゆることにも挑戦した。だが果たせず、ついには語る人から語られる人へと転身を試みた。著者はそう分析する。厳しく容赦しない姿勢で、死の「本質」と「秘密」を抉った一冊である。

週刊朝日 2017年4月14号