先日、死去した松方弘樹の評伝。病に倒れる直前のインタビューを織り込みながら、昭和の残り香を放つ俳優の人生を辿る。

 松方弘樹と聞けば「多くの女性と浮名を流した2世俳優」との印象が強いが、本書を読むと一変する。父親の近衛十四郎は殺陣は当代一だったが、配役や時代に恵まれたわけでなく、松方も気まぐれな時代の波に翻弄され続ける。時代劇や任侠映画、実録やくざ映画、大作時代映画。いずれも脇役で存在感を発揮し、主役の座を掴む頃になると、ジャンル自体の隆盛が下り坂に。著者は松方を「遅れてきた最後の映画スター」と称しているが言い得て妙だ。超一流ではなかったかもしれないが、唯一無二。目の前からするりと大スターの称号が何度も逃げていきながらも、芸の道を模索する姿は胸が熱くなる。

週刊朝日 2017年3月24日号