取材を始める際、「ヤクザの存在を肯定しませんよ」と念を押すテレビ局員に、「私もないほうがいいと思います」と親分が答える。

 本書は、大阪の組事務所を半年間撮影した同名映画の舞台裏ノンフィクション。子供が幼稚園を追い出されたり、銀行口座が作れずに学費を現金で持っていかせたり。「ヤクザにしてください」と部屋住みになった「元ひきこもり」の若者と親世代の組員のやりとりも生々しい。

 暴力団排除条例の効果で3年間に2万人が組織を離脱。減少傾向にあるとともに警察ですら実態把握が困難だという。彼らの排除と引き換えに「人権」が歪められているのでは?そもそもテレビがヤクザを取り上げていいものか。取材班の逡巡や考察は異文化探訪記のようでスリリングだ。

週刊朝日 2017年2月17日号