霊的な存在がいきいきと描かれた短編小説集。現代の日常にふと幽霊があらわれたら?というちょっと不思議な世界が17の連作短編をとおして展開される。

「牡丹柄の灯籠」はリストラに遭い、家に籠もっていた男のもとに非常識なセールスレディ二人組がやってくる話。ずれた女たちの会話に次第にとりこまれ、気づくと……。「楽しそう」では夫婦の死後のありようが描かれる。死んだ後の妻があまりにも楽しそうで声をかけることができない夫と、あえて知らぬふりをする妻。そして実は後妻も死んでいて……。また「菊枝の青春」は播州皿屋敷で有名な姫路を舞台に、注文した皿が一枚足りないことから素敵な関係が始まる話。

 落語や歌舞伎に材をとりつつ軽やかな筆致で現代小説に仕立てている。読後感の爽やかな一冊だ。

週刊朝日 2017年2月3日号