樋口卓治『ボクの妻と結婚してください。』。内村光良主演で舞台化もドラマ化もされ、もっか織田裕二主演の映画も公開中だ。
 謎めいたタイトルだけど、小説はこう書き出される。〈秋の特番まっさかりの頃、僕は病院の診察室にいた。/すい臓ガン。現代の医学で見積もると、残りの命は約6ヵ月だという。/入院したとしても、延命は1年程度。余命を番組に例えると残り2クール〉 
 いきなり、それかい!

 主人公の三村修治は45歳。職業は放送作家。結婚して15年になる38歳の妻彩子と10歳になる息子の陽一郎との3人暮らしだ。
 放送作家として〈世の中の出来事を好奇心で「楽しい」に変換する仕事〉を続けてきた修治。余命6カ月を宣告された彼は死ぬまでに何ができるかと考え、ついに妙案を思いつく。〈そうだ、妻の結婚相手を探そう!〉

 こうして彼は医師に入院はしないと宣言。家族にも職場にも病を隠し、〈僕がいなくなっても、妻と息子が幸せに暮らす〉ため、妻にかわって婚活をはじめるのだ。
 妻のための婚活が、自分にとっての終活になっている点がミソ。もっとも、実際に余命いくばくもない夫や妻がこんな余計なことをはじめたら、誰だって当惑するわね。っていうか端的に迷惑かも。
 とはいうものの、どんなことでも〈「楽しい」に変換する〉がモットーの修治は大マジメ。結婚相談所をはじめた仕事仲間の女性にだけは事情を話し、余命1カ月にして、ほぼ理想の結婚相手を見つけることに成功するが……。

 修治が語る結婚観が興味深い。〈男は外で様々な役を演じる分、せめて家庭くらいは妻に癒されたい。なんて思っている人が多いけど、それは大きな間違いです。家庭こそ演じなきゃ。(略)戦隊ヒーローも変身しないと怪獣に勝てない。癒されたいという理由で結婚したら後悔しますよ〉
 企画して演じることこそ人生という放送作家。しかし放送作家の妻も負けてはいない。夫のドッキリに彼女はどう応えるか。最後にはドンデン返しが待ってます。

週刊朝日 2016年12月23日号