昨年、ほとんどの憲法学者が「違憲である」と断じた安保法制が強行採決で成立し、日本の立憲主義は危機に陥った。憲法遵守の義務を負っている国会議員が数の論理で憲法を歪めるのだから、実際、日本はかなり危険な状況に突入しているのだろう。しかし、その後も安倍政権は国民から高い支持を受けている。
 この奇妙で不気味な現状を理解するには、中島岳志と島薗進の対話集『愛国と信仰の構造』が役に立つ。「全体主義はよみがえるのか」という副題がついたこの本は、〈明治維新からの75年〉と〈敗戦からの75年〉をそれぞれ25年ずつ三期に分けた上で、まずは、かつての日本が全体主義になだれこんでいった原因を検証する。
 気鋭の政治学者と宗教学の泰斗は、一君万民、教育勅語、親鸞主義、祖国礼拝、日蓮主義、八紘一宇、煩悶青年などの内実と関連性について討議し、〈明治維新以後の日本の政治体制の何が弱さであり、何が無謀な戦争と侵略に向かわせ、何が国民の自由を奪っていったのか〉、互いの知見を研ぎあうように対話を進めていく。そして、戦前の第三期(1918~)の後半までに、国家神道による宗教ナショナリズムが諸宗教を呑みこんでいった経緯と構造を明らかにする。
 では、戦後の第三期(1995~)はどうだろうと年表を見れば、阪神・淡路大震災、オウム真理教事件を皮切りに、所得格差の拡大、少子高齢化、東日本大震災など明るい展望が望み難い状況がつづいている。そんな中、1997年に設立され、200名余りの国会議員が所属する日本会議を二人は注視。安倍政権から漂う復古主義的な気配の源はここではないかと疑っている私は、〈宗教ナショナリズム運動と捉えたほうがいい〉との指摘にすぐにうなずいたが、それ以上に瞠目したのは、〈全体主義が戻ってくるとしたら、そのきっかけは、東アジアからアメリカが撤退したときなのではないか〉という中島の予測だった。

週刊朝日 2016年4月1日号