書評『負ける技術』カレー沢薫著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《文庫・新書イチオシ(週刊朝日)》

負ける技術 カレー沢薫著

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トミヤマユキコ書評#文庫・新書イチオシ

負ける技術

カレー沢薫著

978-4062931885
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世間様への違和感

 著者はマンガ家で会社員で人妻で……と書くと、あれもこれもやってて凄いな、人生に前向きなんだな、という感じがするが、実態はその逆である。「人見知りする人間にとって、美容院は古より戦いの場である」と書くほど、コミュニケーションを苦手としており、会社でも「常に一人、誰とも会話をしないため、うっかり口を滑らせるということがまずない」からマンガ家だということがバレていないという。そして自身の代表作『クレムリン』については「人やチャンスにはとても恵まれている。ただ惜しいことに作者に恵まれていないのだ」と言い切り、あくまで自身への低評価をキープ。ここまで徹底した後ろ向きマインドを持つ人間が書くコラムは、おもしろい/つまらないを超えて、独特であり、唯一無二。しかし、できることなら茶飲み友だちになっていろいろ話してみたいなと思わせるほど、共感ポイントが多い(人見知りだから断られるだろうけど)。
 収録されているのは全部で136篇。彼女の日常に起こるあらゆることが話題になっているが、結婚しても相変わらずリア充(リアル=実生活が充実している人々)が憎いという主張はとりわけ素晴らしい。どれだけモテない半生を送ろうが、結婚できた時点でリア充なのだからもう他のリア充を責める資格はない、という世間の抑圧に対し「他人が羨ましくてたまらないという感情には、己の立場は関係ない」と語り、いまだに学生の制服デートに嫉妬すると告白している。わたしにも経験があるが、結婚したら人の幸せを黙って見ていろという言論弾圧はけっこう苦しいものであり、それを活字にしてくれたことに、心からありがとうと言いたい。笑えるコラムの中に「世間様への違和感」を潜ませ、ときどきチクッと刺してくる感じは、白飯に添えた梅干しのようで、酸っぱいけれど、箸が進む。マンガが本業なのは百も承知だが、これからもコラムを書き続けて欲しい!

週刊朝日 2015年11月20日号


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