小説家・中沢けいが、右傾化やヘイトスピーチといったテーマについて小説家・弁護士・社会学者など多彩なジャンルの人々と語り合った対談集。冒頭ではヘイトスピーチが社会問題化した2013年に中沢が抗議活動に参加するまでと以降の経緯が綴られる。数多くの青春小説で知られる中沢が一見「ハード」なテーマに取り組むのは、そうした背景があってこそだ。
 年代・職業など立場の異なる人々が自らの「現場」から語るリアリティに、惹き込まれずにいられない。元自衛官である泥憲和は幼少時代、近所に住む在日の人々からよく肉付きあばら骨などを分けてもらっていたが、彼らが帰った後で「チョウセンが何言うとる」など差別的な言葉が飛んだというエピソードを語る。今現在、在特会などを相手取った裁判に携わる弁護士の上瀧浩子は同じヘイトスピーチの映像を見せても、在日の人の場合、吐き気・涙など日本人とは異なる身体反応が見られると話す。対談は別個でも、全体を通して読めば過去から現在までを貫く国内状況が星座のように浮かび上がる。

週刊朝日 2015年10月30日号