書評『ぐにゃり東京』平井玄著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《今週の名言奇言 (週刊朝日)》

ぐにゃり東京 平井玄著

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斎藤美奈子書評#今週の名言奇言

ぐにゃり東京

平井玄著

978-4768457344
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東京の街は「怪物」になってしまった。

 1964年、東京オリンピックを前に、開高健は『ずばり東京』というタイトルの連作ルポを書いた。平井玄『ぐにゃり東京』は、これを意識しつつ「2度目の東京オリンピック」を前にした東京の風景を描くルポルタージュ風のエッセイだ。
〈東京の街は「怪物」になってしまった。/人を殴りつけるバケモノになった。数十階のタワーが道を行く人間をなぎ倒す。そういう腕が地面から何百本と突き出ている。そう感じたことはないだろうか?〉
 いわれてみれば、たしかにそうだ。続けて著者はいうのである。
〈毎朝、IDカードをかざしてこういうタワーに出入りする人たちはそんなことは思わない。空調のようにセキュリティの効いたホールを入り、大きなエレベーターで静かに昇る。幾何学的な世界を方程式のように進むと、自分たちのオフィスである。座り心地のいいイスがそこにある〉。東京の景色は見る人の意識、もっといえば階層(階級)によって異なるという視点はきわめて新鮮。
 副題は「アンダークラスの漂流地図」。派遣フリーターとして東京中の出版社や印刷工場に赴く著者の目は街の細部もとらえる。〈「おはようございま~す」と声をかけても、どこからも返事がない。みんな正社員のように見えてもほとんど派遣だと、こんな感じなのだ。それが分かってきた〉。土日の朝早く、駅から15分以上かかる裏道に〈ハイヒールや細身のスーツが似合いそうにない人たち〉が歩いている。彼らは裏路地の3~7階くらいのビルの裏口に消えていく。〈各種データの打ち込みオペレーターや通販の電話アポインター、契約のシステム・エンジニアから印刷フリーター、ビル清掃のパートさん、ってとこだろう〉
 格差社会という言葉でなんとなくわかった気でいた人々のリアルな姿が、東京の町々の描写を通じて浮かび上がる。著者の言葉を借りれば「階級地理」。断片的な景色の寄せ集めなのに、知っていたはずの東京がまさにぐにゃりと歪んで見える!

週刊朝日 2015年9月25日号


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