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はたらかないで、たらふく食べたい
話題の新刊
2015/07/30 11:30
アナキズムを研究する政治学者が現代社会を斬る。著者は大学で非常勤講師をする30代半ばの非正規労働者。年収は80万円。実家に住み、両親の年金に頼って暮らす。
普通の思想書とは一線を画し、思索の出発点はいつも個人的な経験だ。とくに恋人との婚約破棄を扱った章は面白い。初めは互いを思い合うだけでよかったのに、結婚を前にしたら著者の生活が問題になってしまった。大正時代の婦人解放運動家・伊藤野枝の思想をもとに、どんな恋愛も「結婚を想定しているかぎりにおいて、たがいの生きかたを夫や妻の役割に切り縮めざるをえない」と指摘。相手のためが、自分の利益のために変わる矛盾を突く。
市民社会は、働かずに消費もしないことを悪だと思わせてくるが、すでに非正規やニートは市民社会から追放されているとも説く。「そろそろ、消費の美徳とむすびついた労働倫理に終止符をうつときだ」との訴えには共感できる。著者の生き方は「甲斐性なし」と言われてしまいそうだが、考えに血が通っており、ぶれない姿勢に肩入れしてしまう。
※週刊朝日 2015年8月7日号
はたらかないで、たらふく食べたい
栗原康著


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