紋切型社会

ベストセラー解読

2015/06/25 16:40

 国会で憲法学者がそろって「戦争法案」を違憲だと断じて、政権幹部たちの慌てふためきようが笑える。憲法学者の権威を否定しようと躍起になって、そのうち「オレがオキテだ」と言い出しかねない勢いだ。
 政治家のオツムが劣化しているが、それへのマスメディアの反応、世間の反応は鈍い。なんでこんなことに?と思いながら、武田砂鉄の評論『紋切型社会』を読んで納得した。日本中でオツムが、感性が劣化している。劣化しているところにはびこるのが紋切型の言葉であり、紋切型の思考だ。
 著者は昨年秋まで河出書房新社の編集者だった人で、今年33歳。これが初めての著書である。結婚披露宴で新婦から両親に告げられる「育ててくれてありがとう」だの、老害論客がしたり顔で言う「若い人は、本当の貧しさを知らない」だの、ドキュメント番組でインタビュアーが得意気に言う「あなたにとって、演じるとは?」など、20の言葉をネタに現代日本社会を論じる。
 似たタイトルの本にフローベールの『紋切型辞典』があるけれども、あちらは辞書形式で19世紀後半のフランスを皮肉ったもの。武田のこちらは、もっとヒリヒリするような痛みを感じる。
 紋切型は便利だ。たとえば政治家がよく使いたがる「国益を損なうことになる」。意味ありげだが、じつは何も言っていないに等しい。国益って何ですか? 国民? 国家? 政府? 与党?と考えていくとわからなくなる。勝手に「個」を「国家」に吸収して、「私」を「私たち」にして、ひとくくりにするんじゃないよ。その「国民」とか「みんな」にオレは入れないでくれ、という気分になる。
 紋切型は便利なだけに強力だ。つい使いたくなる。「国益を損なうことになる」と言うと、とんでもない大罪のように思えてくる。かくしてマスメディアも含めて日本人の感性は劣化していく。とりあえず、ここに挙げられた20のフレーズを見つけたら要注意だ。

週刊朝日 2015年7月3日号

紋切型社会

武田砂鉄著

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紋切型社会

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