2011年4月から朝日新聞紙上ではじまった高橋源一郎の論壇時評。毎月1回、論壇雑誌や書籍だけでなく、インターネット上の言説にも注目しながら、高橋は日本の「いま」と向きあってきた。その初回から欠かさず読んできた私は、今年3月までの48本を掲載順に編んだ『ぼくらの民主主義なんだぜ』を読み、高橋が抱いている思いをひしひしと感じとった。
 それは、タイトルにもある民主主義への危機感だった。東日本大震災と原発事故を機にあらわになったこの国の民主主義の脆弱さに直面し、戸惑い、時に悲嘆する一方で、高橋は絶望しないために、いつにもましてメディアの細部に目を配り、小さな声に耳を傾ける。そこには、既存の大きなシステムに依存しない、自分のことばで考えながら行動している人々が確かにいる。高橋はそれらの事実を紹介しつつ、民主主義への論考を深め、その基盤となる対話の重要性をくりかえし説く。
〈「インテリジェンス」っていうのは、要するに「対話ができる能力がある」ってことじゃないかな〉
 最後は多数決に拠るとしても、それ以前に少数の意見に耳を傾ける。対話をふまえて先に進む。高橋は、台湾でおきた学生たちによる立法院占拠事件をとりあげ、その撤退決定の際、リーダーがデモの参加者全員と対話した態度を讃えてこう記した。
〈学生たちがわたしたちに教えてくれたのは、「民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも、『ありがとう』ということのできるシステム」だという考え方だった〉
 自分の意見に与しない相手をすぐに罵倒する風潮が強まる中、そして数の論理で早々に憲法すら変更されそうな現在、私たちは民主主義に試されているのかもしれない。状況はかなり切迫しているが、それでもまずは相手の話をよく聞き、対話を求めていくしかないだろう。私たちの民主主義のために。

週刊朝日 2015年6月12日号