《ベストセラー解読 (週刊朝日)》

うみの100かいだてのいえ

永江朗書評#ベストセラー解読
 横長の本を90度回して縦にして、ページを開くとどうなるか。なーんと上下に60センチもの長い絵の登場だ。岩井俊雄の絵本、『100かいだてのいえ』をはじめて見たときの衝撃を忘れられない。横に長いパノラマ絵本や仕掛け絵本はいろいろあるけど、「そうか、こういう手があったのか」と感動した。
 空まで届く地上100階の家の次は、地下を掘って『ちか100かいだてのいえ』。地面の上と下にそれぞれ100階の家を建て、もうおしまいだろうと思ってたら第3弾が出た。『うみの100かいだてのいえ』である。
 人形の「テンちゃん」が船から海に落ちてしまう。しかも落ちたときに着ていた服は脱げてしまい、アクセサリーもはずれてしまう。なんと髪の毛までも。テンちゃんは不思議な泡の中に吸い込まれていって……着いたところが水の中の家。100階もある不思議な家だ。
 家の中には10階ずつ、いろんな海の生きものが暮らしている。ラッコ、イルカ、ヒトデ、タコ、タツノオトシゴなどなど。
 それぞれの生きものたちは、すでにテンちゃんの服やアクセサリーを使ってしまっている。たとえば髪の毛は、ラッコの赤ちゃんの布団に。鞄はウツボの子どものブランコに。そこでテンちゃんはかわりに彼らのものをもらう。髪の毛は海藻と、鞄はホタテ貝と交換される。そうして、身のまわりのものを次々と海のものと交換したテンちゃんは、ついに100階までたどり着いて……というお話。
 単純なお話からは、なにやら哲学的なメッセージを感じる。だがそれ以上に楽しいのは、細かく描き込まれた絵を読むことだ。たとえば37階に住んでいるタコは画家で、ボッティッチェリの『ヴィーナスの誕生』みたいな絵を描いているし(ただしモデルはタコ)、87階のチョウチンアンコウは遺伝子の研究かなにかをしているらしい。何度読んでも新たな発見がある。子どもだけでなく、親も一緒に楽しめる絵本だ。

週刊朝日 2014年8月1日号
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