九月、東京の路上で

今週の名言奇言

2014/06/11 18:07

「1923年関東大震災 ジェノサイドの残響」という副題通り、加藤直樹『九月、東京の路上で』は関東大震災時の朝鮮人虐殺を当時の記録や当事者の証言からドキュメンタリー風に描き直したレポートである。
 地震の襲来は9月1日正午前。その日の午後にはもう「朝鮮人を殺せ」という声があがり、自警団や消防団が動きはじめていた。
 警察署前でひとりの男の頭に鳶口(くちばし状の鉄製の刃がついた道具)が振り下ろされる。誰も止めない。<大ぜいの人間がますます狂乱状態になって、ぐったりした男をなぐる、ける、大あばれをしながら警察の玄関の中に投げ入れた>(9月2日、昼。神楽坂下)
「朝鮮人の暴動」というデマを警察が信じ、ついには軍が出動する。駅に到着した超満員の列車。<その中にまじっている朝鮮人はみなひきずり下ろされた。そして直ちに白刃と銃剣下に次々と倒れていった。日本人避難民のなかからは嵐のように沸きおこる万歳歓呼の声──国賊!朝鮮人は皆殺しにしろ!>(9月2日、午後2時。亀戸駅付近)
 虐殺は各地に広がる。公園出口の広場に人だかりができ、ひとりの男を大勢が殴っている。<群集の口から朝鮮人だと云う声が聞えた。巡査に渡さずになぐり殺してしまえ、という激昂した声も聞こえた>(9月3日、午前。上野公園)
 吉村昭『関東大震災』ほかで、それなりに知っていたつもりの虐殺事件だったけれど、その実態は想像以上。<東京はそのとき、かつてのユーゴスラビアやルワンダのようなジェノサイドの街だった>という表現は誇張でも修辞でもない。
 ヘイトスピーチの現場で<「不逞朝鮮人」の文字を彼らのプラカードに見つけたとき、私は1923年関東大震災時の朝鮮人虐殺を思い出してぞっとした>と書く著者は東京・新大久保の生まれ。流言を侮るなかれ。東京は<かつてレイシズムによって多くの隣人を虐殺したという特殊な歴史をもつ都市>なのだ!

週刊朝日 2014年6月20日号

九月、東京の路上で

加藤直樹著

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九月、東京の路上で

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