怒濤の関西将棋

新書の小径

2014/05/01 17:18

 棋士の書いた新書を立て続けに読んだ。森内俊之竜王・名人、渡辺明棋王・王将、そして谷川浩司九段である。この方たちのものを読んで「棋士というのは真面目だなあ」としみじみ感じた。人を驚かせようというところはない。話を盛るとか、引きをつくろうという色気がない。まあ、棋士でも米長邦雄とか先崎学みたいな、ヤマっけの多いのもいるから、単に「最近、新書を書く棋士にそういうタイプが続いた」ということだろう。といって面白くないわけじゃないのだ。真面目なあまり、巧まざるユーモアがかもし出される。
 で、その「棋士新書」の中で、今回谷川さんのを取り上げたのは、「狙ったのではない可笑しさ」がいちばんよく出ているからです。そもそも、谷川さんの著書で「怒濤」なんて言葉がタイトルにあるので、何かがいつもと違う、と思ったのだ。
 関西の将棋界のことを書いている。阪田三吉から始まる。谷川さんが阪田を語るのである! 谷川さんは、たぶんすべてのプロ棋士の中でもっとも真面目で礼儀正しく上品で、かつ常に清新。私は「将棋王国の皇太子」と思っている。その谷川さんが語るんですよ、貧乏で乱暴で傍若無人といったイメージのある阪田三吉を! 吹けば飛ぶよな将棋の駒に、のモデルを! 阪田伝説、たとえば女房を泣かしたといった、女性に不人気な面はやんわりと否定して、淡々と阪田の足跡を語る。有名な「銀が泣いている」の言葉については、「一心同体になるまで将棋に無我夢中になった阪田先生独特の表現」とやさしく解釈しています。
 次に出てくるのが升田幸三で、これもまたクセのある人だ。そして阪田の孫弟子である内藤國雄とくる。演歌歌手として「おゆき」を大ヒットさせたあの内藤である。そんな関西の棋士たちを、品のある筆致で語るのがやけに面白いのである。内藤の詰将棋作家としての側面を語るうちに、自分の詰将棋への思いがいきなり激しく吐露されたりするのもたまらない。

週刊朝日 2014年5月9日-16日号

怒濤の関西将棋

谷川浩司著

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怒濤の関西将棋

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