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沈むフランシス
話題の新刊
2013/10/31 12:59
石器時代の古層と先住民族命名の地が広がる北海道東部。人口800人の山間の小さな村に女は、東京での一切を捨てて流れて来た。少女期に数年を道東で過ごした記憶、学生時代に短期滞在したことがある、それだけの縁で移住を決めたのだった。
臨時雇いの郵便配達人として暮らし始めた彼女と、村はずれの川辺に独り住み地域発電の水車を保守管理する男と。北国の四季を背景に、抗いがたく求め合うようになった、共に漂泊者の顔を持つ二人を描いた小説が本書である。
男は、オーディオマニアの世界では知られた音のコレクターでもあった。星空の静寂を含む森羅万象から音を採る。「音をちゃんと聴くために……フランシスと暮らしている」という。フランシスとは? 人間でもペットでもない。だが、35歳と38歳の濃密なセックスを時に中断させるイタズラもの。謎めいた気配を漂わせながら、危うく揺らぎ、そして深化していく恋を描く、2013年読売文学賞受賞作家の新作。結晶のまま降りてくる厳冬の地の雪を思わせる筆致が美しい。
※週刊朝日 2013年11月8日号
沈むフランシス
松家仁之著


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