里山資本主義

ベストセラー解読

2013/09/05 15:28

 3年前にベストセラーとなった『デフレの正体』の著者、藻谷(もたに)浩介と、NHK広島取材班がチームを組んで提唱する「里山資本主義」とは、〈お金の循環がすべてを決するという前提で構築された「マネー資本主義」の経済システムの横に、こっそりと、お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうという考え方〉である。
 東日本大震災で私たちが思い知らされたのは、いくら手もとに金があっても、いざ自分たちを取りまく巨大なシステムが破綻すれば、食料も電気も届かない現実だった。生活の基盤を外から買ってきて暮らす日々の脆弱さに、私たちは強烈な不安をおぼえた。それは、金さえあれば何でも手に入り、金銭に換算しにくい自然や人間関係は後回しという社会の限界の明示であり、実はずいぶん前から多くの日本人が抱いていた不安を実感に変える出来事だった。
 藻谷たちが唱える里山資本主義は、〈お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、いわば安心安全のネットワークを、予(あらかじ)め用意しておこうという実践〉でもある。その事例として紹介されている岡山県真庭市などがとても示唆に富んでいるのは、そこが中国山地にある点だ。
 日本が高度経済成長をとげるとともに衰退した林業。国土の66%を森林が占めながら、山林地域は間伐の予算にさえ苦労している。そんな山林をかかえる真庭市ではじまった変革に藻谷たちは学び、マイナスをプラスに変える里山資本主義の可能性を説く。森や人間関係といったお金では買えない資産に最新のテクノロジーを加えて活用すれば、マネー資本主義だけに頼らない、〈安心で安全で底堅い未来が出現する〉と。
 負の遺産のような山林に囲まれた町からはじまった新しい資本主義の実践は、草の根ネットワークを通じて少しずつ広がっているらしい。50年後はこちらの方がメインになるのではと、私はかなり本気で期待している。

週刊朝日 2013年9月13日号

里山資本主義

藻谷浩介、NHK広島取材班著

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里山資本主義

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