東京放浪記

話題の新刊

2013/08/22 16:05

 76歳になる現在まで、「よそ者」感にとらわれつつ東京に住む劇作家の自伝的エッセイ集。渋谷、目黒、新宿、六本木、浅草といった土地になじみながらも、かすかな違和感がよぎる都市生活の肌触りが描かれる。
 満州に生まれ、高知、静岡、長野と移り住んだのち、信越線に乗って上京した著者にとって、かつての上野は、都市の暗部を象徴するような場所だった。「ネクラな上野組」という属性を、著者は深く自覚する。
 早稲田での学生時代には、「自由舞台」という左翼劇団に入ったことで「在野の精神」の意味に思い至った。それは常に「通俗世界」に身を寄せ、そこでの喜怒哀楽に同調することではないか。行きつけの喫茶店から喫茶店へと原稿用紙を抱えて歩き、人間のうちでも「流れる者」は喫茶店で安らぎ、「住みつく者」は居酒屋で安らぐとの持論を導く。渋谷は「らんぶる」「ライオン」「田園」などの喫茶店の街だった。
 さまざまな要素を不調和のまま内包する東京。「飽きがこない」と表現するその魅力の奥行きが味わえる。

週刊朝日 2013年8月30日号

東京放浪記

別役実著

amazon
東京放浪記

あわせて読みたい

  • 喫茶店ブームふたたび⁉4月13日は「喫茶店の日」

    喫茶店ブームふたたび⁉4月13日は「喫茶店の日」

    tenki.jp

    4/13

    喫茶店で「無為な時間」、過ごしていますか?

    喫茶店で「無為な時間」、過ごしていますか?

    BOOKSTAND

    10/8

  • 路地裏の資本主義

    路地裏の資本主義

    週刊朝日

    12/18

    カフェ通がオススメする京阪神の名喫茶店

    カフェ通がオススメする京阪神の名喫茶店

    BOOKSTAND

    2/5

  • カフェと日本人

    カフェと日本人

    週刊朝日

    12/11

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

カテゴリから探す