書評『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』スティーヴン・グリーンブラット著/河野純治訳 |AERA dot. (アエラドット)

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《話題の新刊 (週刊朝日)》

一四一七年、その一冊がすべてを変えた スティーヴン・グリーンブラット著/河野純治訳

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谷本束#話題の新刊

一四一七年、その一冊がすべてを変えた

スティーヴン・グリーンブラット著/河野純治訳

978-4760141760
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 15世紀、ヨーロッパで起こったルネサンスは人間性豊かな芸術と近代科学を生み、以後の世界を根本から変えた。大変革を引き起こしたのはたった一冊の古ぼけた写本。本と、発見した男の数奇な運命をたどる。
 問題の本は古代ローマの哲学者、ルクレティウスの著作。あらゆる事物は原子でできているし、魂は滅びる、人は幸福を追求すべしという主張は、当時のキリスト教社会では殺されかねない危険思想。ところが発見者のポッジョはローマ教皇の元秘書。彼の時代、教会の腐敗はなはだしく、人々は抑圧的教義に支配されていた。教会の中も外も解放を求めて爆発寸前、本との激しい化学反応を待つばかりだった社会状況が鮮やかに描かれる。
 面白いことにポッジョはラテン語文書の崇拝者ではあったが、社会変革など毛ほども考えてはいなかった。ライバルを誹謗中傷、金儲けに余念がなく愛人との間の子も数知れず。すこぶるつきの俗物がたまたま見つけた偉大な思想が、本人も知らぬ間に次々波及してついに世界をひっくり返した。この世の壮大なる奇妙さに呆然とする。

週刊朝日 2013年3月1日号


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