書評『大原孫三郎 善意と戦略の経営者』兼田麗子著 |AERA dot. (アエラドット)

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《新書の小径 (週刊朝日)》

大原孫三郎 善意と戦略の経営者 兼田麗子著

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青木るえか#新書の小径

大正時代に“東洋一の病院”ってすごい!

 この本、近所の本屋でやたらよく売れている。うちは広島で大原さんといえば倉敷なので、ご近所の人を描いた本だからかもしれない。が、これは地域限定の本ではなくて「昔の偉人」の丁寧な伝記なので、どこに住んでる人にも面白いはずだ。
 大原美術館の創始者である大原孫三郎。もともと金持ちの息子で、学生時代は放蕩で大借金背負ったりしたが金持ちなのでそこはやりすごし、そのことを深く反省して良心的経営者の道を進んだ人である……というのは大原美術館を見てるとなんとなくわかる。あそこは、金持ちが金にあかせて名画を買いあさった感じが不思議とないんだよな。
 読んでいると、ほんとに、ちゃんとした人なんだ大原孫三郎。この人が設立した倉紡中央病院についても詳しく述べられている。倉敷紡績社員のためだけではなく、地域のために東洋一の病院にすべく、院内に温室をつくるとか「病院くさくない」明るく美しい病院にしようとした。どんな患者も平等に診察し「患者からの一切の心付けを禁じる」とか。
 これ大正時代ですよ。今だって「理想的な病院をつくろう」としたら同じようなスローガンになるんじゃないか。大原さんの先を行った考え方の素晴らしさがよくわかる。その伝統を今に伝えていて、現在倉敷中央病院となっても院内にはケーキを売るショップがあるそうで、そのケーキが私にはとても気になる。ヘルシーなケーキとかなのだろうか。
 というようなことは、大原孫三郎とは関係がないわけだが、とにかく「良心的な金持ちもちゃんと日本にいたのだ」という安心感を与えてもらえる。だが……こういう話を読んでいると常につきまとうのが、けっきょく金持ちは金持ちのままいい暮らしをしている、という思いで……そこはどうしてもぬぐい去れない。「しょせん財産全部投げ出す気はないワケね」という諦めの境地になり、金持ちは敵という気持ちはなくならない。

週刊朝日 2013年3月1日号


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