藝人春秋

ベストセラー解読

2012/12/27 16:55

 水道橋博士をテレビで初めて見たのは、もう20余年ほど前になるだろうか。その頃から今にいたるまで、博士は芸人らしからぬ雰囲気を放っていると感じてきた。漫才をやっても、たけし軍団の一員として体をはっていても、司会をやっても、どこか醒めている。本人は否定するだろうが、私はそんな違和感を覚えながら注目してきた。
 特に気になったのは、目だった。小柄な体にぴったりの童顔にあるその目は、いつも何かを観察しているようだ。この『藝人春秋』に編まれた15人(そのまんま東、甲本ヒロト、石倉三郎、草野仁、古舘伊知郎、三又又三、堀江貴文、湯浅卓、苫米地英人、テリー伊藤、ポール牧、太田光、北野武、松本人志、稲川淳二)のルポエッセイでも、まずは博士の観察眼が力を発揮し、彼らのちょっとした表情の変化を的確にとらえる。そして、豊富な語彙とリズムに乗ったシャレを駆使して書かれた文章とあいまって、それぞれの芸人の過剰ぶりが痛々しいほど伝わってくる。
 とはいえ、読後感はどれもほのかな暖気に包まれる。笑いをちりばめつつそれぞれの暗部に迫りながらも、そこに尊敬の念があるからだ。たとえ、三又のような不見識な後輩が対象であっても、彼の中にある「自分にはない過剰なもの」への畏怖を博士は忘れない。
〈名もなく過ごす平凡で安全な日々〉を捨て、23歳のときに〈出家同然にたけしに弟子入り〉した博士は、50歳になった今もまだ、「自分にはない過剰なもの」に惹かれつづけているのだろう。その証拠に、博士はよく見てよく調べ、よく訊いてよく聴き、その上で、よく書いている。まるで、文芸の世界からテレビの裏側という魔界に送りこまれたルポライターのようだ。
 テレビに映る博士に私が違和感を抱いた理由もこれではなかったか、と思う。いわば30年近くもの潜伏期間をかけて取材し、ついに報告されたこの本は、だから、哀しくなるほど面白い。

週刊朝日 2013年1月4-11日新春合併号

藝人春秋

水道橋博士著

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