大阪アースダイバー

ベストセラー解読

2012/11/07 18:39

 以前、朝日新聞が「ゼロ年代の50冊」というアンケート企画を実施した際、私は迷わず『アースダイバー』を選んだ。縄文期の地図と現在の東京を重ねることで、古代からの地勢がそれぞれの街の成立に根深くかかわっているとわかり、いたく興奮したからだった。
 土地の歴史や記憶をたどるアースダイビングの手法は、人間の勝手な思惑でできているように見える街の表層を剥がし、真の地肌を顕わにする。その作業には当然、膨大な参考資料や証言が不可欠となる。東京篇から7年後に刊行されたこの大阪篇でも、中沢新一はそれらをふまえつつ自身の知見を総動員し、無垢な大阪の実像に迫っている。
 固い洪積層を土台とした東京とは違い、「くらげなす」土砂層の上につくられていった大阪。古代、南方や朝鮮半島から海民が上陸し、上町台地や生駒山の麓に暮らす先住民と出会うのだが、弥生式の生活様式を持つ彼らは、新たにできた砂州を拠点とした。そこで古来の土地に縛られない無縁の原理を育んだ海民の子孫たちは、商都「ナニワ」を生成していく。中沢は、無縁を前提に新たな社会をつくりだした大阪こそが〈真性の都市である〉と説き、何より信用を重んじた船場の商人たちを再評価する。また、ミナミが誕生する過程も細かく紹介し、かつての処刑場や墓地に漫才が生まれ、歓楽街ができた必然を物語る。
 そして、大阪の地と血の関係性を考えるときに必ず直面する差別問題にも、中沢は丁寧に挑んだ。渡辺村の住民がたどった苛酷な歴史、朝鮮半島から移住した人々が果たした役割などを、背景にある為政者の意図とともに書いた。偏見の助長ではなく、史実の理解を願う中沢の思いは、行間にあふれていた。
 大阪の誕生と発展にかかわった死者たちが動きだし、私たちにつながる人間の営みの切なさや愉楽が伝わってくるこの一冊。中沢新一、渾身の作である。

週刊朝日 2012年11月16日号

大阪アースダイバー

中沢新一

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大阪アースダイバー

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