神奈川県箱根町湯本を流れる早川。7月3日の大雨で濁流となった(c)朝日新聞社
神奈川県箱根町湯本を流れる早川。7月3日の大雨で濁流となった(c)朝日新聞社

「山地の占める面積が多く、数が多くなっている。温泉街では旅館の裏側が警戒区域になっているようなところもある。そうしたところでは反対側の建物の3階に避難するなどソフト対策を進めています」

 奥飛騨温泉郷がある高山市も1763カ所と多かった。県内で最も指定箇所が多くなっている。山林が市の90%以上を占めているのが主な要因と見られる。奥飛騨温泉郷の周辺のハザードマップを見ると、土石流や急傾斜地の崩壊する箇所が多くなっている。

■国有林で住民が少ない草津

 一方で、全国屈指の湧出量を誇る草津温泉がある草津町(群馬県)は、土砂災害警戒区域はわずか38カ所にとどまった。山の中に入っていった先にある町だが、なぜここまで少ないのか。

 町土木課の担当者に聞くと、「町のほとんどが国有林だから」と話す。草津町の土地面積は4975ヘクタールなのに対し、林野面積3085ヘクタール、その内、国有林は2686ヘクタールも占める。林野面積の9割近くが国有林になっている。

「山の方は国有林で、危険な場所に人家がない。市街地も広くないので、指定箇所も少なくなっているのだと思います」(土木課)

 湯田中渋温泉郷の山ノ内町(長野県)も137カ所と少なかった。危機管理課の担当者は「町の半分以上が山林区域だが、そこには人が住んでいないからだろう」と見る。それに加え、この地域では土砂災害や水害は少ないという。どういうことか。

「太平洋側の台風は山々が阻んでくれて、こちら側には雨が集中して降らない。2019年に来た台風19号で降った雨は、1時間当たり39ミリほど。川の氾濫もなく、住家の被害もゼロ件でした」(危機管理課)

■警戒区域の指定が少ない富良野、真鶴
 
 またラベンダー畑や十勝岳などで有名な富良野市(北海道)も土砂災害警戒区域の指定が24カ所と少なかった。他の自然豊かな観光地と何が違うのだろうか。全国治水砂防協会の大野宏之理事長はこう見る。

「小説『泥流地帯』で描かれているように十勝岳では大正時代に火山泥流で大きな被害を受けたことなどもあるが、北海道全体で見れば、土地が広く、危ないところに住むような土地利用が少ない。これが指定箇所の少なさにつながっているのでしょう」

 豊かな海に囲まれ人気を集める真鶴町(神奈川県)も74カ所と少なかった。海岸から後背には山地が広がっており、傾斜地も多い。それなのに、なぜか。町の防災担当者はこう見る。

「危険なところに人が住んでいないというのはある。また、河川がないのも一つの要因。川は一つだけあるが、普段は水が流れていない。土砂災害も少ないです」

 前述したように、ここでの指定箇所はその自治体全体における数なので、これら観光地だけに影響するものではない。だが、災害はいつどこで起こるかわからない。万が一のリスクに対応できるよう準備をしておくのが良いだろう。(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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