撮影:越沼玲子
撮影:越沼玲子

■祖母にくっついて野山を歩いた

 作品には昆虫をくわえたり、野ネズミを捕まえようとするネコの姿が写っている。

「ネズミはほんとうによく捕まえますね。あと、鳥とかも」

 そんな瞬間をよく撮れたと思うが、「いっしょに寝っ転がったり、走ったりとか、まあ、そうやって過ごしているうちに自然に撮れてきたというか」と言い、撮影の苦労を感じさせない。

 カメラを手にした越沼さんに対して、警戒心を抱くネコもいれば、そうでないネコもいるという。

「ネコが走っていって、振り向きながら『ついてこい』みたいなのもたまにいます。そういうネコに撮らせてもらうんです」

 ただ最初は、すごい瞬間や、誰も見たことのないような瞬間をねらおうと、気負っていたところがあった。

「でもだんだんと、生きている、そのままの息づかいみたいなものを撮りたくなってきた」

撮影:越沼玲子
撮影:越沼玲子

 ネコの写真の合間には、水田に浮かぶ水草、つるの絡まったツバキ、森の中のかすかなけもの道などが点景として散りばめられている。

 それらは越沼さんが幼いころ、祖母に連れられて野山を歩いたときに目にしてきた光景だった。

「家の後ろはすぐ山ですし、川や田んぼ、畑がある。昆虫や動物、草木とかにすごく引かれていて、小学校から帰ったら自然のなかで一人で過ごしたこともけっこうありました。友だちが誘いに来ても、夢中になっていたことも。それくらい自然の息づかい、あるがままに生きている感じに引かれていた」

 そんな感覚を持つことが長い間、特別なこととは思わなかった。

「けれども、都会に出てきてから、(ああ、そういうことって、大切なことなんだな)と、改めて思うようになりました」

■そのままの姿がいいんだよ

 概して若いころは自然の息づかいには気づかないものだ。

 そんな話をすると、越沼さんは「祖母といっしょに過ごしたことが多かったからかもしれない」と言う。

「小さなころは昆虫とかを捕って家に持って帰りたくなるじゃないですか。祖母は『そういうのは外で生きている、そのままの姿がいいんだよ』と言ってくれた。そんな祖母が近くにいた。草木や動物といっしょに生きている、まわりでふつうに暮らしている感じ。それがそのまま写らないかな、という思いを最初から追い求めてきたんです」

(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】越沼玲子写真展「自然のなかで、息をする」展
入江泰吉記念奈良市写真美術館 7月10日~8月22日