――病気を通じて、お父さんの知らない面を知ったり、これまでとは違う時間を持ったりすることができたんですね。

 それはあると思います。

 たとえば、マンガにも描いたのですが、父と母と3人で、父の補聴器を買いに行ったんです。電車に乗って出かけるのもひと苦労でしたし、けっこうな時間をかけて聴力テストをして、説明を受けました。でも、補聴器は数十万もするのに試着もできない。結局、何も買わずに帰りました。

 私はものすごい徒労感があったのですが、なぜか父も母も満足げで。その帰り道、駅近くのカフェに行って、3人でお茶を飲んだときに、「鬼が出てくる昔ばなし」「ひろすけ童話(浜田広介さんの童話作品)」の話題で、すごく盛り上がったんです。

あさとひわ著『ねぼけノート 認知症はじめました』(朝日新聞出版)
あさとひわ著『ねぼけノート 認知症はじめました』(朝日新聞出版)

 自宅で食事をしながら話すことはあっても、親子そろって出かけることが数年なかったんです。だからそのカフェでお茶を飲んだことが、ここ数年で一番の団欒になりました。
 
 介護をする必要がなければそのほうがいいし、認知症にはならないほうがいい。でも、父が認知症にならなかったら、こんなふうに交流したり、家族や夫婦について考えたりすることもなかったかもしれない、と思います。

※発売中の『ねぼけノート 認知症はじめました』には、お父さんの名言や、家族のほっこりエピソードが満載です。