熱中症で特に注意が必要なのは体が小さな子どもだが、小学校での熱中症の発生件数は比較的少ない。

 ところが、「部活動が始まる中学生になると急に増え」(手引書)、小学6年生が200件以下なのに対して、中学1年生になると600件以上と、一気に3倍以上に増える。

 熱中症がもっとも多いのは高校1年生で、約1000件。受験勉強で忙しくなり、部活動から離れる高校3年になると、件数は半減する。

■部活での熱中症は85%

 部活動と部活動以外での熱中症の発生件数を比較したデータもあり、これを見ると、部活中の発症は約85%と、圧倒的多数を占めることがわかる。

 部活の種目別で見ると、ワースト5は野球、ラグビー、柔道、サッカー、剣道で、特に野球での熱中症の発生件数はラグビーの約2倍と、飛びぬけて多い。

高校の運動部における各種事故の発生倍率(内田准教授提供、以下同)
高校の運動部における各種事故の発生倍率(内田准教授提供、以下同)

 つまり、これらの部活関係者が本気で対策に取り組まなければ児童生徒の熱中症による事故が大きく改善されることはない。

 ところが、このような状況は長年見過ごされてきたと、内田准教授は嘆く。

「授業ではしっかりとされている熱中症対策が部活動ではなされていない。その不備を子どもたちが体で引き受けている。その現状に心底腹が立つんですよ」

 実は、熱さ指数に基づく熱中症対策はかなり以前から呼びかけられており、すでにWBGT計を導入している学校は多い。

「ところが、部活ではそれをいちいち見ない。値を確認してしまったら練習できなくなってしまうから。そういうことが日常的に起きているんです。あるいは、WBGT計の値が高かったら校内放送で『休みなさい』とアナウンスする。でも、それは一時的で、結局はやる、とか。そんなふうに熱中症対策の指針をかいくぐって、部活動をやっているのが現状なんです」

■「自主的」で片づけられる無法地帯

 その背景にあるのが夏に開催される大きな大会だ。

「大会に向けて、どうしても練習をしたい先生や生徒がいる。それがどんなに危険な行為であっても、『部活をやりたい』という気持ちが勝ってしまう」

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部活動の「自主性」に落とし穴