撮影:市ノ川倫子
撮影:市ノ川倫子

 画像を重ねると、消えていく画像と、浮かび上がってくる画像があるそうで、そのバランスを見ながら、どの画像を重ねるか、セレクトする。興味深いのは、セレクトの経験を積んでいっても、そこには必ず偶然性が入り込むことだ。

「偶然性によって浮かび上がってくる美しさ。思いも寄らない新しいものが生まれるんです」

 さらに、「若干、見た目がやわらかくなるというか、鮮明さが薄れる」。

 その感じが「記憶」と似ているという。

「画像を重ねれば重ねるほど、実際に自分が見た印象とは変わっていって、リアリティーが薄れていく。そういうところが記憶と近い。やわらかく、幻想的な世界になって、より美しく思い出される」

 市ノ川さんいわく、多重露出というのは、光と影の組み合わせの妙だそうで、そこにすべての生命の根源である水、そして花を重ね合わせていく。

「お花って、命といっしょだなと思っていて、『光』『影』『水』『花=命』、この四つの要素を多重露出で組み合わせることで、夢の中のような自分の世界観を表現する」

撮影:市ノ川倫子
撮影:市ノ川倫子

■自分の手を動かしてつくる

 初個展以来、これまでの作品はすべて、「カメラの中で完結した」画像をプリントしたものだったが、今回は「プリントした多重露出の写真の上に描いたり、それを切ったものを載せたりして、さらに撮っている。つまり、画像データの処理でつくったものに対して、さらに自分の手を動かしてつくっている。それが何層も積み重なった感じです」。

 作品の題名「JARDIN」はフランス語で「庭」を意味する。

「自分の中の内なる『庭』の風景。そこには、けっこういろいろな景色が広がっていて、自然なものもあれば、強いものもある。作品をどう見るか、正解はないと思っているので、色や形、世界観を楽しんでいただければ、うれしいですね」

(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】市ノ川倫子写真展「JARDIN」
Nine Gallery 6月1日~6月6日