撮影:高橋宣之
撮影:高橋宣之

■同じ場所を撮り続ける

 帰国後、水への興味は海から川に変わっていった。美しい水を求め、川をさかのぼった。そこには美しい森があった。高橋さんによると、「水を撮ること」と「森を撮ること」は同義語という。

 高橋さんの父親はアユ釣りの毛ばりの考案を生業としていた。出来上がった毛ばりで試し釣りをするのも仕事だった。高橋少年はくる日もくる日も川の話を父親から聞かされて育ったという。

<別に父の面影を追ったわけではないが、私は太平洋に流れ込む水の姿に興味をもち、ある年から川をさかのぼるようになった。高知県は黒潮に抱かれた山国。振り向くと四季それぞれに装いをこらした山並みが迫り、その狭間を流れは四国山地に向かって消えている。私ははるかな連嶺を望みながら父の水域に入っていった>(「四季の写真2006年夏号」学習研究社)

撮影:高橋宣之
撮影:高橋宣之

 40代後半からは撮影の頼まれ仕事を完全に断ち切り、風景写真一本に絞った。

「好きなことだけで食べていくのは大変で、きつかった……」

 作家活動が軌道に乗り、大きな仕事が増えてきたのは60歳を過ぎてからだ。

 撮影日数は年間330日にもおよぶ。

「頑張りでもなんでもないですよ。ただ、面白いから行くんです。遊び、仕事、スポーツ、癒やし、そんなものがすべて写真に凝縮しています。ぼくは回遊魚のように毎年同じところをぐるぐると回りながら撮っています。それで飽きないということは自然が毎年違うものをみせてくれるから。やはり自然は奥が深い。毎日がすごく楽しいです」

(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】高橋宣之写真展「神々の水系」
キヤノンギャラリー S(東京・品川) 6月21日~6月29日