撮影:小澤太一
撮影:小澤太一

■人はパンのみにて生きるにあらず?

 小澤さんによると、燐鉱石は掘りつくしたことにはなっているが、いまでもほそぼそと採掘しているそうで、そこで働いている人もいるという。

 ということは、ナウルの全国民は難民キャンプか鉱山で働いているのだろうか?

「いや、ほとんど働いていない、というのが正解かな。みんな、ふらふらしてますから。ほんとうに何にもしていないんですよ。びっくりするくらい」

「でも、みなさん、どうやってご飯を食べているんですか?」

「それは国からのお金、年金というか。給料日みたいに、銀行にすごい人が並んでいるときがあって、ああ、今日はその日なんだなと」

 小澤さんはナウルを訪れる前、この国のことが書かれたさまざまな本を読んだ。

「崩壊した国とか、だれも働いていないとか、糖尿病がすごく多いとか。そんなことばかりが羅列されていた。とんでもなく悲壮感がある、マイナスイメージの国だと思っていたんです。ところが、行ってみたら、ぜんぜんそうじゃなくて、みんな幸せそうだし、海で楽しそうに釣りしてるし」

 そこで思い出したのが、以前、聞いた生活保護の話だった。

 大阪府・西成に暮らす女性は、「受給者に食事は提供できても、生きがいや、やりがいを届けることはできない。『人はパンのみにて生きるにあらず』ですから」と、目の輝き失った人々のことを寂しそうに語っていた。

 そのときは、(そのとおりだよなあ)、と思ったのだが、ナウルの人はまるで違うらしい。

 国から生活資金を支給され、ご飯を食べ、ただ、ぶらぶらしてみんな幸せに生きている。

 すべての人に無条件で現金を配る「ベーシックインカム」制度がこんなところで実現し、しかも、それなりに機能していたとは……。

撮影:小澤太一
撮影:小澤太一

■何もないんです。海しかない

 ナウルの人々はびっくりするほど親切で、とても安全な国という。

「なので、朝、起きてから日が暮れるまで、どころか、夜通しふらふらするような生活。海辺で寝たりすることも多かったですね。赤道直下だから夜も寒くないし。もうずっと、四六時中撮っていた感じ。これは、もう楽しいな、と」

 話を聞いていくと、治安のよさの背景には島の人々の濃厚な人間関係があるらしい。

「バイクに乗っていて、『それ誰に借りたの』って聞かれて、ちょっと説明すると、ああ、誰って。もう、ほぼみんなわかっちゃう。夜中、酔っ払いに絡まれて、バイクを持っていかれたことがあったんです。けれど、朝には誰が犯人か、ちゃんとわかるんですよ。警察に太ったやつで、こんな感じでと説明すると、ああ、あいつだなと。すぐにバイクが戻ってきた」

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