カラフトフクロウの給餌。子育てには役割があり、オスが狩りをして巣で待つメスへ獲物を届ける。メスは肉片をちぎってヒナに与える間、常に周囲へ警戒の目を光らせていた(撮影:大竹英洋)
カラフトフクロウの給餌。子育てには役割があり、オスが狩りをして巣で待つメスへ獲物を届ける。メスは肉片をちぎってヒナに与える間、常に周囲へ警戒の目を光らせていた(撮影:大竹英洋)

■誰も反応してくれなかった写真展

 帰国後は編集プロダクションで働き口を見つけ、ほそぼそとした撮影で暮らす日々。ところがひょんなことから再起への歯車が動きだす。

 ある日、いつものように仕事を終え、近所の喫茶店でコーヒーを飲んでいたときだった。

「このあいだ写真を撮りに来た人だよね」と、マスターから声をかけられた。以前、フリーペーパーの仕事でこの店を訪ねたのだ。

「それで、昔、北米で自然の写真を撮っていたんですよ、という話をしたら、『店内で写真展をすればいいじゃない。お客さん来ないし。盛り上げてよ』と、言われて。それじゃあ、という気になったんです。まだ発表もしていないうちに写真を諦めた、やり残したという気持ちがふつふつと湧き上がってきたんでしょうね」

 気合を入れて、デザイナーの友だちに頼んで写真展案内のチラシを作ってもらい、出版社にも配った。

 ところが、「誰も反応してくれなかったんです。雑居ビルの2階の喫茶店で、無名の人間が撮った、撮影場所もわからない、『ノースウッズ?』という写真展――ただ、その人だけは、ビビッときたみたいで」。

「唯一来てくれた」、その人は絵本で知られる福音館書店の編集者で、小学生向けの科学雑誌「たくさんのふしぎ」をつくっていた。

ピカンジカムの町からムース狩りのキャンプにやってきた父と息子たち。受け継いできた食文化と狩猟民の伝統を、次の世代へと伝えてゆく(撮影:大竹英洋)
ピカンジカムの町からムース狩りのキャンプにやってきた父と息子たち。受け継いできた食文化と狩猟民の伝統を、次の世代へと伝えてゆく(撮影:大竹英洋)

■「大竹さん、早くフィールドに戻ってください」

「実はぼく、『たくさんのふしぎ』に憧れていたんです。尊敬している星野道夫さん、今森光彦さんもよく出されていた本で、何冊か写真集を出した後に、そういうところで仕事ができるようになるんだろうな、というくらい遠い存在だった。それが、編集部の人から『いっしょに本をつくりませんか』『ぼくはあと、2年で定年なんだけれど、なんか、やっと見つけた気がする』みたいな感じのことを言われたんです」

 たいへんなよろこびを感じるのと同時に、40ページ、20場面の本を構成できるだけの作品があるか、不安にもなった。

 そんな気持ちを正直に打ち明けると、「大丈夫ですよ。とりあえず、あるもので、組んでみてください」と、ベテラン編集者らしい落ち着いた言葉が返ってきた。

「じゃあ、ということで、四季の流れを追いながらオオカミを探す、というストーリーを組んだんです。オオカミを探す途中でオーロラを見上げたり、小鹿と出合ったり、ムースがわっと出てきたとか。でも結局、オオカミとは出合えない。これからも旅は続く、というストーリーにして、お渡しした」

 すると、「やっぱり、大丈夫ですね。もっとよくなりますよ」と、太鼓判を押してくれた。

 さらに正式に出版が決まると、「大竹さん、早くフィールドに戻ってください」と、力強く背中を押された。「大丈夫ですから。大竹さんなら大丈夫ですからと、ほんとうに励まされた」。

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まわり道をする旅に意味がある