撮影:竹沢うるま
撮影:竹沢うるま

■わかりやすい写真の真逆へ

「宗教であれ、民族であれ、国境であれ、人間の時間軸で考えられ、生み出された境界線というものは、やがて大地のうねりにのまれて消えてしまう。そういう境界線の無意味さ、はかなさ」

 それを日本の「人がつくり出した風景」と、アイスランドの「むき出しの自然風景」とを対比して見せる。

「大地を目の前にすれば、境界線というのはほとんど無意味なんですよ」

 それが、世界中を旅してきた竹沢さんの実感なのだろう。

 さらに、こうつけ足す。

「実は、ちょいちょい、鳥が入っているんです」

 なんとなく気にはなっていたのだが、作品のあちらこちらに鳥の姿が写り込んでいる。それが今回、非常に重要な要素だという。

「鳥の視点で俯瞰して世界を見ると、人間が生み出したすべての境界線が消えてしまうんです。鳥というのは国境、海も山も越えてしまう。種類によっては何千キロも飛ぶわけですから」

撮影:竹沢うるま
撮影:竹沢うるま

 提示したかったのは、大地と人間の関係性を考えるきっかけになるような風景写真。SNS上に写真があふれかえるいま、目の前の美しい光景をそのまま写しとることにほとんど意味を見いだせなかった。みんなに「いいね!」をもらえるようなわかりやすい写真ではなく、その真逆をいきたいと、ずっと思っていた。

「これまでぼくは主に人を撮ってきたんですけれど、風景写真の可能性はまだまだあると思うんです。いまの風景写真って、そのほとんどが見る人にこびているように感じる。もうちょっと作家性を追求できるんじゃないかと。じゃあ、作家性って何かというと、『自分が世界をどう見ているか』。風景写真なんだけれど、その風景に何が存在しているのか、それを写真でとらえたい」

 それが今回の概念的なテーマ、「境界」であり、その「あいまいさ」だった。生まれたばかりの大地と人の風景で構成することで、人間が大地に抱かれていることも表現したかった。

「まあ、周囲からいろいろと言われるし、みんなが思っていることも伝わってきます。でも、それに合わせてしまったら、自分を見失ってしまう。そんなことで自分の立ち位置を決めたくない。ちょっとずつしか前へ進めないけれど、それが自分の内面から出てきたものであれば、それでいいと思っています」

(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】竹沢うるま写真展「BOUNDARY|境界」
キヤノンギャラリー銀座 4月20日~5月8日、キヤノンギャラリー大阪 6月8日~6月19日