「こたつ」山形・大蔵 1976年(C)Kazuo Kitai
「こたつ」山形・大蔵 1976年(C)Kazuo Kitai

「そして村へ」が突然、連載終了になったわけ

「そして村へ」のなかには有名な「こたつ」(76年3月号)のシーンがある。これは冬の山形県大蔵村で撮影したもの。

「最初は真室川の渡し舟を撮りに行ったのかな。そうしたら、古い茅葺の大きな家がたくさんあったので、こたつにあたっている人たちでやろうと思った」

 ところが、村は降り積もった雪に閉ざされて、家の中が全然見えない。

「仕方ないから一軒一軒開けて。そうすると、だいたい、こたつって、すぐ目の前にあるんだ。で、この子なんか本当にこのとおり、開けたらここにいたの(掲載写真)。それで、『ちょっと、写真撮らせて』って。向こうはわけがわからないよね。でも、『どうぞ、どうぞ』と言ってくれた」

――いまだったら、大変なことになっちゃいますね。

「もう、こんなふうに撮るのは不可能かもしれない。ぼくはドキュメンタリーで『三里塚』を撮っていたから、相手に撮られることを認識させたうえで撮るという、被写体との関係性を持っていた。自分なりの被写体に対するイメージがあって、その間を行ったり来たりするんだけど、基本は相手の要素と自分の要素が半分ずつ。状況によってその比重は変わるけれど、大きく傾くことはない。むしろ、自分のイメージでつくりすぎないように、気をつけている」

「そして村へ」の評判も上々だった。ところが、77年6月号で突然、終了してしまう。

「『なんで、北井ばっかり』って、かなり言われたみたい。それで、編集長の岡井(輝雄)さんから『困っている』と、相談されたの。『それはよくわかります。いつでも身を引きます』と言ったら、『やめてくれないか』と。その代わりに、『どこへでも好きな外国に好きなだけ行っていいから』って(その後、2カ月間スペインへ)」

――いい時代だったんですねえ。

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】北井一夫写真展「村へ、そして村へ」
フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 4月1日~6月30日