「鉄道」と「掛け軸」。時間の流れを写しとった作品の意外なルーツ 写真家・揚野市子 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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「鉄道」と「掛け軸」。時間の流れを写しとった作品の意外なルーツ 写真家・揚野市子

TRACE coast 10(撮影:揚野市子)

TRACE coast 10(撮影:揚野市子)

 写真家・揚野市子さんの作品展「TRACE ~Place of prayer~」が2月26日から東京・六本木の富士フイルムフォトサロン東京で開催される。揚野さんに聞いた。

【写真】揚野市子さんの作品

 写真展のサブタイトルは「Place of prayer」。つまり、祈りの場所。

 展示の基調となるいちばん大きな作品は、霊場として知られる青森県・恐山を写したもの。薄く青みがかった色調の写真には石の混じった白い砂浜が写り、その向こうに湖の水面が広がっている。奥には芽吹いたばかりの萌黄色の木々に覆われたなだらかな山が見える。

「この宇曽利山湖はほんとうに吸い込まれるような青い色なんです。訪れたときはすごく静かで、音がぜんぜんしなかった。私は父を亡くしているんですけれど、自分の大事な人を思ったときに、ああ、あの世がこんな穏やかなところだったらいいな、と思って。みんなここに来て、そういった祈りを捧げるんじゃないかと思ったんです。それで、『祈り』という言葉が出てきて、ほかの作品はそのイメージに揃えた感じです」
TRACE lake 03(撮影:揚野市子)

TRACE lake 03(撮影:揚野市子)

きれいに写真をつなげるのでなく、ズレを生かす

 インタビューの前、写真展案内で揚野さんの作品を目にしたとき、それはパノラマ写真だと思った。写真の中に黒い縦筋が何本も等間隔で写っているので、縦位置の写真をつなげていったものとわかったが、「ちょっと変わったパノラマ写真」くらいの認識だった。

 ところが、インタビューの際、改めて作品を大きなサイズで見ると、黒い縦筋の左右で絵が微妙にズレて写っていることに気づいた。そこに視線が引っかかり、目を引きつけられることを実感した(人間の目は物の形を識別するため、無意識にズレのような境界線に引きつけられる特性を持っている)。

 これまで揚野さんは「TRACE(なぞる)」というタイトルで自然や街の風景を撮り続けたきた。

 写真展案内には「本シリーズは三脚の軸を支点として、周囲をぐるりと写しとるスタイルが特徴」とある。

 通常、パノラマ写真を撮る際は、レンズの中心である「ノーダルポイント」を軸にしてカメラの向きを変え、撮影する。そうすることによって、画面がズレなく写り、パソコンで写真をつなげる際、スムーズにつながる。

 ところが、揚野さんの場合、三脚の軸を基準にカメラを回転させるため、連続して写した写真には必ずズレが生じる。

「撮った後で合成してきれいにするんじゃなくて、むしろ、ズレていることが作品制作の意図につながっている。だから、そこは無理に合わせない。ズレをそのまま残しています」

 作品を構成する写真はすべてノートリミング。その左右の縁を黒い縦線として表すことでズレを強調している。

 一枚一枚の写真には、それぞれの「瞬間」が写っているが、それをズレのある連続写真として見せることで「時間の流れ」が伝わってくる。特に水面を間近で撮影した作品からは、微妙な波立ちの違いから、時間の変化がより明確に感じられる。

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