撮影:山下大祐
撮影:山下大祐

 幾何学的なイメージの魅力は列車の形だけにとどまらない。

「鉄道は地上設備も幾何学的で、すごくすてきだなあ、と。いつもそういう思いで撮影しています」

 その一つがレール。「これも好きなんです」と言って見せてくれたのは一面の雪景色。そこに2本の黒いレールが緩やかなカーブを描いている。線路ぎわで除雪作業をする黄色いヘルメットを身につけた人。

北海道の石北本線です。遠軽駅のすぐ近くに跨線橋があって、その上から撮っています。平面的な白い世界に限られたシルエットが置かれている」

 雪に包まれた静寂の世界。湿った冷たい空気。そこにじんわりとした温かさが感じられる。

撮影:山下大祐
撮影:山下大祐

「わけあってこういう形をしている」トンネルや鉄橋の美しさ

 トンネルや鉄橋は「理由のある造形」に引かれるという。

「わけあってこういう形をしている、というのが素敵なんですね。鉄道はそういうものに囲まれている」

 伊豆急行の連続したトンネルを覗き込むように写した作品には、「馬蹄型(馬の蹄の形)」に山をくり抜いた断面がはっきりと見える。その形にはちゃんと理由がある。トンネルの断面は岩盤の圧力に対しては円形が最適となるが、電車を通すには矩形(四角)が適している。この二つを折衷したのが馬蹄形なのだ。

「これは『トンネル抜きの風景』(または単に『トンネル抜き』)と呼ぶんですが、けっこう好きな撮り方なんです。そういう『理由のある形』を見せながら、トンネルの向こう側の景色を撮る。トンネルとトンネルの間にある小さな駅に朝の光が差し込み、ホームに小鳥がとまった瞬間にシャッターを切りました」

 そして、鉄橋。というより、森の緑に映える赤い鉄骨の写真だ。

 撮影地は岩手県北上市と秋田県横手市を結ぶ北上線。鉄道ファンにはよく知られた鉄橋だそうで、軽量なうえに強度のある「トラス構造」を採用している。作品は、その特徴である鉄骨を三角に組み合わせた造形を写しとっている。

「超望遠レンズで、鉄橋の一部分をほとんど奥行き感をなくして撮っています。そこに走ってきた電車が擬人化されて見えるというか、赤い直線のなかに少し柔らかさをもたらしてくれました」

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カメラの進化が動く鉄道の見せ方を変える