ちなみに、森さんのイチオシ作家は高野秀行さん。辺境冒険作家として知られる業界トップランカーである。「やっぱりすごいです。『ソマリランド』はわくわくしたし、『西南シルクロード』も好きですね」私も高野さんの大ファンなので、その気持ちはよくわかる。

 旅の在り方に激震を与えたコロナ禍を経て、森さんの旅にも変化はあったのだろうか。
「これまでは、最低でも月に1回は海外へ旅をしていましたが、それが棚上げになり、国内や地元へとじっくり向き合う時間ができました。私だけでなく、多くの方が身近なものを見直しているのは、この状況の『良い側面』だと感じています。コンシェルジュとしては、『旅に出ずに旅を追求する』ことで、旅の本質をより深く考える機会になりました」

 自粛の状況下で、自分のルーツまで見直す時間になったというのは、旅人ならずとも共感できるのではないだろうか。そのうえで森さんが見つめる未来は、やはり旅に帰結する。

「店頭での表現だけにとどめたくないので、本だけでなく、商品開発や観光地の振興など、いろんな角度から旅に関わっていきたいです。あと、これまで国内旅行がおろそかになっていた部分があって、コロナによる海外渡航の制限をきっかけに、国内の行きたい場所に行こうと思っています」

 好奇心は心にとりつく病気であり、心を突き動かす原動力でもある。そして、触れ合った第三者を動かすこともある。森さんを通じて、人はなぜ旅に駆り立てられるのか。そのひとつの答えが見えてきたような気がする。

旅人アンケート(森さんの場合)

旅の途中で読みたい本:星野道夫の『旅する木』、『長い旅の途上』
旅の途中で聞きたい音楽:落語(長旅では日本語が恋しくなるので)、KISHIBASHI、ブリティッシュロック
お気に入りの街: ロンドン
現地食は?:絶対に食べる
もう一度食べたいもの:イラクのクルド人自治区で食べたマンディというラム肉の料理
最大のトラブル:モロッコで足にできた腫瘍の手術をしたこと(後遺症あり)
旅先で盗まれた高価なものは?:パソコン(スワジランドで盗難。窃盗犯の母親から返却される。犯人は逃亡)
旅先での恋は?:きっかけは多くありました
足元は?:かかとのあるサンダル、ライトトレッキングシューズ

■プロフィール
森卓也(もり・たくや)
六本松 蔦屋書店 旅のコンシェルジュ。 30代のときに人生の転機を迎え、世界をこの目で見るまでは死ねないと決心。世界1周を2度、3年にわたり世界を放浪する。 帰国後、旅と本の知識を買われて九州TSUTAYAに入社。六本松 蔦屋書店プロジェクトへ参加し、「日本で一番旅をしている書店員」として旅の書籍の選書、旅の相談、イベント等、旅に関するあらゆる業務を担当する。 2018年11月、15日間の休暇をもぎとり3回目の世界1周へ。今まで訪れた国は125カ国。

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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