撮影:鈴木サトル
撮影:鈴木サトル

 ページをめくると、「来年度のコンテストのレースの募集が始まる、という案内があったんです。(これは面白いな)と思って、応募したら、モノクロ部門で入賞の通知がきた。2位だったみたいですね。初めての応募だったので、そのときはよくわからなかったんですけど」。

 コンテスト常連者からすれば、なんともとぼけた話だが、鈴木さんはその後、「フォトコン」で年度賞を受賞。翌年には、「アサヒカメラ」にも応募するようになり、こちらも年度賞を受賞するのである。

 これは、もう快挙としか言いようがない。なにしろ写歴うん十年の猛者が競い合う世界である。1、2回の入賞であれば「ビギナーズラック」はありうる。しかし、年度賞は絶対にありえない。

 つまり、それは「運がよかった」のではなく、鈴木さんが実力でもぎ取った栄冠だ。繰り返しになるが、写真を撮り始めてわずか1、2年。しかもまったくの独学で、だ。

撮影:鈴木サトル
撮影:鈴木サトル

(あっ、見つけた)みたいな感じで、もののけのような被写体に反応する

 写真集に収められている作品の多くは街でのスナップショット。撮影に出かけるのは「だいたい都内で、昼ごろから(被写体を)探しに行くんです」。電車に乗って原宿、銀座、上野などへ。

 もしくは、「いつもポケットにGRIIを突っ込んでいるので、今日みたいに何か用事があったときの行き帰りに写すんです。あとは、ふつうの買い物のときとか」。

 GRIIというのは、スナップ写真の撮影では定番のリコーイメージングの小さなデジタルカメラで、先に書いた作品「めまい」もこのカメラで撮影したものと言う。

「これは自分のマンションの受付の女性なんですよ。荷物を送るのを頼んで、寸法を測っていたら、前髪がたらーっと下がってきて、それをさっとかき上げたところ」

 話を聞けば、何の変哲もないシーンである。ところが写真に写し出されると、その光景が妖気を漂わせて立ち上がってくる。

 ページをめくっていくと、都会の雑踏のなかで子どもが笑いながら母親の首を絞めているような、ちょっとおどろおどろしい写真があるのだが、こちらも、「たまたまじゃれていたんでしょう」と、事もなげに言う。

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子どもが「はい」と手を挙げる感覚