佐多岬半島(撮影:公文健太郎)
佐多岬半島(撮影:公文健太郎)

「その象徴がこの写真なんです」

 公文さんはそう言って、最初のほうにあるページを見開く。撮影地は四国にある日本一長い半島、佐多岬半島。使われなくなった港の突堤に荒波が押し寄せ、どっぷりと潮に洗われている。

「つまり、文化とか、宗教とか、外国からの軍隊とか、いろいろなものが半島に押し寄せてきた。その象徴として撮ったものです」

 写真集の作品は半島ごとにまとめられているが、区切りはなく、ページをめくっていくうちに、いつの間にか別の半島の景色へと移り変わっていく(撮影場所は巻末に記載されている)。

「北から南まで、半島という『点』を淡々とつないでいくことによって、日本の全体像を見せたいんです。そうやり方が好きなんですね」

 そのうえで、「撮影した8半島にはそれぞれ意味がある」と言う。

 導入部の佐多岬半島は「半島に暮らす」ということ。能登半島は海と人の暮らし、島原半島は半島の成り立ち、紀伊半島は森と人の暮らし、薩摩半島は日本の入口と出口としての半島、下北半島は古いものと新しいもの、男鹿半島は宗教、亀田半島は根元と先端との距離と、熱を込めて説明する。

「わりと考えているんですよ(笑)」

能登半島(撮影:公文健太郎)
能登半島(撮影:公文健太郎)

人も産業も海からやってきたイメージの能登半島

 対岸に九州の山々が見える佐多岬半島の地形は急峻で、山の縁が崖となり、海に没している。そんな場所に点々と家や港がある。「この海では関あじ、関さばがとれるんです」。漁船に乗せてもらい、豊後水道へ。捕った魚の内臓を抜き、べっとりと血のついた漁師の手が生々しい。「こんなんでした」と、公文さんも説明の手のひらを傾ける。船はひっくり返ると思うほど揺れたらしい。場面が変わり、低い太陽の光に照らされたミカン畑。「スペイン・アンダルシア地方みたいな風景です」。そこに腰を下ろす農家の人。(ああ、『耕す人』だ)、と思う。

 ページをめくると、「能登半島です」と言われるが、違和感はない。「氷見の寒ブリ」の水揚げ設備。網を作る女性たち。半島の中ほどにある七尾湾は牡蠣養殖が盛んで、大量の牡蠣殻がトラックに積まれていく。伝統的な手法による塩づくり。輪島の街でひときわ元気な魚売り。「人も産業も海から来ているイメージです」。おばあさんが冬の海の際を這うようにして採っているのは岩ノリ。それを川に浸かりながら洗った後、乾燥させる。家の前には白い小舟が置かれ、そのわきの桜の木に薄暗い光が当たっている。

 一転して陽光。野球グランドを背景に桜が咲いている。島原半島。「噴火災害から約30年たって、復興した街」。その道路際にたたずむ男性。

「噴火した年に生まれたという人です。背景は雲仙普賢岳。もうすぐ子どもが生まれる、という日に出会ったんです」

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漁業で潤った名残と原発の風景