間伏、福江島(撮影:田川基成)
間伏、福江島(撮影:田川基成)

最後の世代のかくれキリシタン

 子どものころから、わりと近くに教会があった。身近にたくさんのキリスト教徒がいることも知っていた。しかし、その世界に足を踏み入れたことはなかった。カメラを携えて地元の島々を巡る旅は、自分の知らない宗教のコミュニティーの中に分け入っていく旅でもあった。

 キャプションに「かくれキリシタンの末裔」とある作品を見ると、真っ赤な半袖シャツを着た中学生くらいの少年が海を背に立ち、視線をまっすぐこちらへ向けている。

「彼は、『俺はかくれキリシタンの末裔ばい』みたいに言っていたんですけど、実際にそうなんです。この平戸島の根獅子という村は、この子の親の世代まではみんなかくれキリシタンだったんです。でも、少子高齢化で、宗教行事を受け継いでいく若者がいなくなってしまい、もう信仰を集落として維持できない、ということで、30年ほど前にかくれキリシタンをやめることを決めたそうです」

 信仰を維持できないどころか、生活環境が厳しすぎて村人が去ってしまった場所もある。無人島になった五島列島北部の野崎島や、廃村になった福江島の最北端の間伏地区などで、田川さんはそこへも丹念に足を運び、レンズを向けている。

「五島列島は九州本土とは比べものにならないくらい風が強いんです。ずっと強風が吹いていて、それで野崎島の木は曲がっている。間伏なんか、もう木が生えてないし、人が住めるような場所じゃないんです。でも、潜伏キリシタンの子孫たちはすごく風が強い山の上や斜面、入り江、離れ小島とか、そういうところに住まざるを得なかった。いまでもそういうところにたくさん教会があって、それを中心としたコミュニティーがあるんです」

 一方、いまもかくれキリシタンを続けている人はすべて合わせても300、400人ほどという。

「生月島がメインで、あとは五島列島と、外海というところにほんの少し。彼らは本当に最後の世代というか、近いうちになくなってしまう信仰なんです」

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】田川基成写真展「見果てぬ海」
ニコンプラザ東京 THE GALLERY 11月17日~11月30日、
ニコンプラザ大阪 THE GALLERY 2021年1月21日~1月27日開催。
同名の写真集も発売する。