キヤノンEOS R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・ISO100・絞りf8・1/3200
キヤノンEOS R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・ISO100・絞りf8・1/3200

写真って「うそをつける」ところも好き

 展覧会場を入るとすぐ目の前に大きなモノクロ写真が現れる。火をイメージした、あの安政火口だ。

「今回の展示は原始のイメージなのでモノクロ写真を多用しています。カラーだと色が邪魔するシーンって、けっこうあるんです」

 一方、「写真って『うそをつける』ところも好きなので」、風景を風景としてとらえるのではなく、何か別のイメージが立ち上がるような作品にしたいという思いもある。宇宙から見た地球の夜明けのような雪原の写真。枝が折れた木の幹は、噴火口を上空から俯瞰したようにも、女性の胸のようにも見える。

 さらには、毛細血管のような地衣類、皮膚のはがれた人間の肌のような地表、と不気味な写真もある。その背景にはいまも進行中のコロナ禍がある。

「実は写真展のタイトルを決めたのは今年3月なんです。自粛が始まり、世の中が劇的に変わっていった。最初はそれをものすごくネガティブに考えていた。でも、時間ができたのでアイヌの文献を読み漁っていたら、疫病のこともカムイと呼んでいたことを知ったんです。そこに新型コロナに苦しむ現代人が学ぶべきところがあるんじゃないか、ということをすごく感じた。それを自然写真で描きたいと思った。コロナのおかげですごく思考が深まりました」

新型コロナの時代にあらわになったものを描きたい

 会場には2017年から最近まで撮影した38枚の作品を展示する。ちなみに今年撮影した18枚のうち、コロナ期に撮影した写真は14枚もある。昔の写真がどんどんセレクトから外れていった。

「思考が変化したことが大きいです。カムイが私たちにもう一度自然を見つめ直せ、自分たちの暮らしはほんとうにこのままでいいのか、問いかけている。自然の不思議さや神秘性だけでなく、恐ろしさというのがこのコロナの時代にあらわになった。それを描かないといけないな、という思いが強くて、タイトルをカムイにしたんです」

 写真展は火山から始まり、水や森につながり、宇宙的なイメージで終わる。壮大な話ではあるが、その根本は人と自然が共存するあるべき姿を、アイヌの人たちが感じてきたであろう自然観を写真で描くことで触れたい、ということにある。

「それをいまの自分たちの生き方にフィードバックできるんじゃないか、というのがテーマなんです」

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

※ 星野道夫はアラスカを舞台に活躍した動物写真家。1996年、ヒグマに襲われて亡くなった。

【MEMO】中西敏貴写真展「Kamuy」
キヤノンギャラリー S(東京・品川) 9月19日~10月31日。写真集「カムイ」(玄光社、3200円+税)も先行発売する。