写真を通して風景に出合い直す

 8×10で撮り始めたときは、いわゆる8×10らしい写真が多かった。でも撮影を重ねていくうちに、ふと目線を向けただけのようなのに、そこにちゃんとディテールがある写真を手に入れたいと思うようになりました。

 野で山の中を歩いていると、風が通っていく場所や、木立の合い間に遠くを見通せる気分のよい場所に出合って、「ここで撮りたいな」と、足が止まることがあります。

 そこで撮り始めますが、ピントは初めに見たところに合わせて、構図は後。フレームを先に決めるような撮り方はしません。大判カメラでは画面の四隅に余計なものが写り込んでいないかを確認したりしますが、それもあまり気にしません。フィルムホルダーをセットして、シャッターを切る。この一連の動作は、撮るために見るのではなく、その場所での身体的な経験を優先しています。

 撮影から戻って、現像したフィルムからコンタクトプリントをつくって見ると、おおげさなようですが、「あれ、こんなもの撮ったかな?」と思うことがよくあります。あらためて風景に出合い直すようで、いろいろな発見もあり、撮った写真を見ることはとても楽しいです。撮影者が目にしたものだけでなく、常に客観性を含む。そのことが写真の大きな特徴であり、魅力だと感じています。
                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】鈴木理策写真展「海と山のあいだ 目とこころ」
ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 1+2で7月21日~8月8日、ニコンプラザ大阪 THE GALLERY で8月20日~9月2日に開催。