綱島理友(つなしま・りとも)さん/1954年横浜生まれ。日本大学芸術学部でデザインを学んだ後、雑誌『ポパイ』『ブルータス』『ターザン』で編集を担当しながら執筆活動を開始し、『週刊朝日』などで連載を担当。1999年より『週刊ベースボール』にて「ユニフォーム物語」の連載を開始。野球意匠学研究の第一人者として知られ、埼玉西武ライオンズのライオンズ・クラシックなどNPBのイベントでも監修をつとめる(撮影/加藤夏子)
綱島理友(つなしま・りとも)さん/1954年横浜生まれ。日本大学芸術学部でデザインを学んだ後、雑誌『ポパイ』『ブルータス』『ターザン』で編集を担当しながら執筆活動を開始し、『週刊朝日』などで連載を担当。1999年より『週刊ベースボール』にて「ユニフォーム物語」の連載を開始。野球意匠学研究の第一人者として知られ、埼玉西武ライオンズのライオンズ・クラシックなどNPBのイベントでも監修をつとめる(撮影/加藤夏子)

 プロ野球チームの復刻ユニフォームを監修するなど、日本を代表する野球意匠学研究家である綱島理友(つなしま・りとも)さん。その綱島さんが心血を注いだ新刊、野球帽の歴史とその変遷をまとめた書籍『野球帽大図鑑』が話題となっている。戦前から2020年現在までにプロ野球で使用された帽子、約700点をカラーイラストと解説文で徹底紹介した奇跡の一冊。著者の綱島さんにその魅力をうかがった。

【写真】綱島さんが監修に携わったセ・リーグの復刻ユニフォームイベント「グレート・セントラル」

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■『ユニフォーム図鑑』から『野球帽図鑑』へ

 野球は選手だけではなく監督・コーチまでが帽子をかぶっている唯一のメジャースポーツだ。しかし、野球のルールブックには帽子の着用義務については書かれていない。

 では、なぜ野球選手は帽子をかぶるのか?

 綱島さんはこの疑問を解き明かすために日本の野球殿堂博物館だけではなく、アメリカの野球殿堂や、メジャーリーグの全球団に帽子を供給するニューエラの本社(ニューヨーク州バッファロー)にまで足を運び取材を重ねてきた。日本の球団の帽子を紹介するだけではなく、アメリカの野球史から徹底的に調べるのが綱島流だ。

出来上がったばかりの『野球帽大図鑑』に目を通す綱島さん。この日もお気に入りというブルックリン・トロリードジャースの帽子を着用(撮影/加藤夏子)
出来上がったばかりの『野球帽大図鑑』に目を通す綱島さん。この日もお気に入りというブルックリン・トロリードジャースの帽子を着用(撮影/加藤夏子)

「野球の創成期には今のような野球帽ではなく、麦わら帽子やキャスケット、競馬の騎手のような帽子など、様々なスタイルの帽子が使用されています。それが1890年代ごろから現在のような野球帽が一般的になり、その後も時代とともにスタイルや機能が変化してきました。かつての日本ではプロ野球チームの帽子は、小学生時代にかぶるのはいいとしても、大人になってかぶるものではありませんでした。大人でも球場で応援のためにかぶる人はいましたが、日常生活でかぶっても、けっして格好良いと思われるものではなかったんです」

 ところが2004年にメジャーリーグの野球帽を手がけるニューエラ社が日本へ本格的に進出したことで変化が起きる。

「ニューエラ社が05年から横浜ベイスターズの帽子を手掛けるようになると、ベイスターズの帽子がヒップホップ系の若者たちにファッションとして注目されるようなり、街中でもベイスターズの帽子をかぶる大人が増えていきました。こうして日本プロ野球の帽子も、ファッションとして認められるようになっていったんです。帽子ひとつとっても、こういったストーリーがあるということが面白いですね」

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