なかでも「時間つぶし」で強烈だったのが、「子づくり」だ。そのフィリピン人は、「コロナで人が減っても、新たにつくっておけば大丈夫でしょ」と話した。たちの悪い冗談かと思ったが、彼はいたって本気だった。

 以前、現地で取材していたとき、交通死亡事故では「加害者が重傷を負った被害者にとどめをさすケースがある」という話を聞いたことがある。なぜか。フィリピンでの死亡事故の賠償金の平均は約25万円で驚くほどに安い。重傷者の治療費を払い続けるより死亡補償のほうが安くすむという悪夢のようなカラクリなのだ。

「相手の命よりも金勘定が先になることがある」というケースを知っていただけに、前出の「子づくり」のような振り切っている感じは、個人的には「いかにもフィリピンだなあ」と思わずにはいられなかった。(文/丸山ゴンザレス)

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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