「写真は足で撮れ」というのは、昔からよく言われてきた。「写真は足でかせげ」とも言う。人気の高い風景写真家に聞くと、口を揃えて、駐車場から30分自然に分け入るだけで自分以外に誰も見かけなくなることが多いと言う。車で行けるような有名なスポットで撮影した写真は、それがたとえ絶景でも、ほかの人と同じにしかならない。横並びではない、いい写真を撮るためには、自分の足で歩く必要があるということだ。

【写真】気分転換に森林浴ができる絶景スポット

 「アサヒカメラ」2020年5月号では、全国の自然を撮り歩く五島健司さんが、特別に、全国14カ所の「歩いてくたくたになる絶景」、つまり、自分の足を使うからこそ出会える絶景を教えてくれた。そのうち5カ所をここで紹介する。

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 歩いてくたくたになった先には絶景がある。道路際から見る景色とはまったく違う心の動きが作品づくりに作用する。思ってもみなかったものにレンズを向けるかもしれない。
 
 ただし、山の天気は変わりやすいのでそれなりの心構えと準備が必要となる。防寒着や雨具、軽い食料、飲料水は必携。携帯ラジオや鈴、熊よけスプレーも装備したい。できるだけ単独行動は避けること。

安の滝(秋田県北秋田市 徒歩約40分)

晴天とピークの紅葉に虹が懸かる
晴天とピークの紅葉に虹が懸かる

 安の滝は「日本の滝100選」のひとつで、その中でもトップクラスの美しさと評される名瀑である。奥阿仁エリアの中ノ又渓谷(打当川)の上流にある落差90メートルの2段滝。滝周辺の渓谷にはブナやカエデなどの広葉樹が多く、色鮮やかな新緑と紅葉が見事。滝は南西向きのため午後が順光となる。紅葉時期の太陽がキラッと当たる晴天の午後1時から3時くらいに虹が懸かる。PLフィルターを回して最も虹色が濃くなったところでシャッターを切りたい。

 滝本体だけでなく、「安の滝駐車場」から滝までの約1.9キロの登山道沿いにも多くのすばらしいポイントがある。雨が降った翌日の水量が多いときが撮影のチャンス。

アクセス:阿仁マタギ駅から安の滝駐車場まで車で約10キロ、約30分。問い合わせ:北秋田市商工観光課 電話:0186-62-5370

一切経山 五色沼(福島県福島市 徒歩約90分)

70~200ミリズームレンズで紅葉した木々と青い水面で作画する
70~200ミリズームレンズで紅葉した木々と青い水面で作画する

 裏磐梯にある観光地の五色沼とは別の湖である。磐梯吾妻スカイライン・浄土平から望める一切経山(標高1949メートル)の山頂直下にある火口湖。「魔女の瞳」とも呼ばれ、コバルトブルーの水をたたえる湖面が美しい。

 夏には沼を囲む木々の緑、秋には紅葉とコバルトブルーの湖水とのコラボに息をのむ。浄土平駐車場から1時間半も登ってきた苦労が一気に吹き飛んでしまう。

 撮影は山頂からレンズを下に向けてのアングルが一般的で、時間と体力に余裕があれば北側の家形山へ向かうルートを下って沼を西側からねらうアングルもある。

 撮影時間帯は沼を囲む崖が影で黒くならない午前11時から午後2時くらいまでがベストであろう。

アクセス:東北自動車道福島飯坂ICもしくは福島西IC下車、磐梯吾妻スカイライン・浄土平に駐車、約1時間半の登山。問い合わせ:浄土平ビジターセンター 電話:0242-64-2105

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