川島小鳥さんの実質的なデビュー作『未来ちゃん』は印刷会社「イニュニック」でつくられたZINEだった
川島小鳥さんの実質的なデビュー作『未来ちゃん』は印刷会社「イニュニック」でつくられたZINEだった

 ZINE(ジン)という言葉をご存じだろうか。

【売れ残らない!という写真集はこちら】

<自作の文章や絵、写真などをコピー機やプリンターで少量印刷し、ホチキスなどでとじた小冊子。「magazine」(雑誌)が語源とされる。手軽に自分を表現できる手段として1960年代に米国で生まれ、90年代に西海岸を中心に流行>(朝日新聞「キーワード」)

 50年ほど前、荒木経惟さんがまだ電通に勤めていたころ、社内のコピー機を利用して「ゼロックス写真帖」をつくった話は有名であるが、これはまさしくZINEだ。

 当初、手づくり感あふれる「小冊子」にすぎなかったZINEは、インターネット時代になってから大きな進化を遂げている。写真集もそうだ。

 その理由のひとつに出版不況の影響がある。大手出版社がこぞって豪華版写真集を出していたのは昔話。いまでは一般受けして確実に売れる写真集しか出せない状況に陥ってしまった。

 そもそも、写真というものは表現が先鋭化すればするほど、発表の場はかぎられてくる。メーカー系のギャラリーからは「作品はすばらしいのですが……」と断られ、出版社からも袖にされ、人の目に触れることなく、死蔵された作品がたまっていく――そんな写真家を何人も知っている(土門拳賞を受賞した梁丞佑さんもそうだった)。

 出版社と契約して自費で出版する、という道もある。しかし、数百万円という費用がかかるのがふつうで、売れなければたいへんな赤字となり、自宅は在庫の山となる。リスクはかなり大きい。撮り手としては再起不能となってしまう恐れもある。

 そんな状況のなか、徐々に広まりつつあるのが、出版社を通さずに直接印刷所に写真集づくりを依頼することで制作コストを抑え、インターネットなどを活用して自分たちの手で直販する、現代版のZINEの作品集だ。

【写真家・尾仲浩二さんに聞いたZINE活用法】

パリの写真展会場で写真集を販売する尾仲浩二さん
パリの写真展会場で写真集を販売する尾仲浩二さん

 写真家で、「ギャラリー街道」(東京都中野区)の運営もしている尾仲浩二さんは、ZINEという名称が知られる前から自らの手でたくさんの写真集をつくってきた。

「やっぱり、こういうものは遊び心があるから楽しいと思うんですよ。出版社がつくってくれないものを出すわけですから」

 最近は年間2、3冊のペースで写真集をつくっている。企画から編集、デザインを手がけ、印刷用画像を印刷会社に送って刷ってもらい、出来上がった写真集の販売まで自分で行う。

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尾仲流の「編集術」とは?