絞り開放では画面周辺が暗くなり「私のまなざしを見せてくれる」■キヤノンEOS 5D MarkIV・EF50ミリメートル F1.0L USM・ISO400・絞り開放・AE・マイナス1/3補正(撮影/高橋宣之)
絞り開放では画面周辺が暗くなり「私のまなざしを見せてくれる」■キヤノンEOS 5D MarkIV・EF50ミリメートル F1.0L USM・ISO400・絞り開放・AE・マイナス1/3補正(撮影/高橋宣之)

「標準レンズ」と言われる50ミリではどのような撮影が可能なのか。風景写真やポートレートなど、各分野の写真家がポイントを解説する。

【使用したレンズはこちら】

■作者の意図をはっきりと伝える

 三脚を持たずに、キヤノンEOS 5D MarkIVとEF50ミリメートル F1.0L USM、一本だけを持って一日中、森の中をさまよっています。

 森の中は閉ざされた空間です。撮影距離は最大でも5メートルくらい。その距離感を50ミリレンズというのは非常に見たままに撮れるんです。

 それと、広角レンズで撮ると、森のどこかに空が入ってしまう。50ミリの画角だと空を切れるんです。自分の画面の切り取り方のリズムというか、それが50ミリの画角と合っている。

 撮影はスナップ写真や心象風景を写すのにちかいところがあって、被写体を見て、感動して、その感動が冷めないうちにシャッターを切りたいんです。

キヤノン EF50mm F1.0L USM(1989年発売)。高精度のデュアルピクセルCMOS AFなら絞り開放でも合焦する
キヤノン EF50mm F1.0L USM(1989年発売)。高精度のデュアルピクセルCMOS AFなら絞り開放でも合焦する

 もともと森の中は暗いですが、特に照葉樹林と、夏場の広葉樹林はとても暗い。森の外と中では光の量が10倍くらい違います。露出でいうと、3絞り半から4絞りくらい。でも、このレンズは開放絞り値がF1ですからとても明るい。ですから手持ちで速いシャッターが切れる。

 被写界深度が非常に浅いですから、体が前後に動かないように、しゃがみこんだ姿勢でシャッターを切ることが多いです。

 このレンズを使い始めてから30年くらいになります。絞り開放でのボケは非常に大きいですし、設計が古いですから画面周辺部の光量低下もかなりある。

 でも、それはいわゆるトイレンズのような感じの写りで、フォトショップなどで修正をせずに、そのまま使っています。写真を見る方の目線が確実に、私が着目したところにいくようにです。

 最近のレンズはあまりにも性能がよすぎて、絞り開放でも画面の四隅まで完全に写ってしまう。それでは、どこを撮っているのかわからないことがある。

 最近のレンズの方向性とは逆行していますけれど、非常に魅力のあるレンズです。

 ピントがこないことが最大の欠点でしたけれど、2、3年前、「あっ、ピントが合った」と。そんなわけで、ようやくまともに使えるレンズになりました。これはボディーの進化のたまものです。

(写真・文/高橋宣之)

※『アサヒカメラ』2020年1月号より抜粋。本誌では「スナップ写真」や「鉄道写真」も含め、4分野の撮り方をプロの写真家が解説している。