【図鑑写真】
ウミネコ成鳥冬羽。横向きで種類ごとの特徴を見せている。光線や背景にも気を配る必要があり、野鳥撮影の基本(撮影/中野耕志)
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ウミネコ成鳥冬羽。横向きで種類ごとの特徴を見せている。光線や背景にも気を配る必要があり、野鳥撮影の基本(撮影/中野耕志)

 野鳥の撮りかたの基本ともいえるのが、素直にアップで横向きに撮ること、いわゆる図鑑写真である。野鳥は種類ごとに姿形が異なるのはもちろん、雌雄、年齢、季節により羽衣が異なる。

 これらのバリエーションを写真に記録していくことは、コレクションとしての楽しみがあるのだ。一見簡単そうでつまらない撮りかたと思うかもしれないが、図鑑写真を侮ってはいけない。

 写真を見た人がその鳥を識別できるよう、種の特徴を写し込む必要があるし、そもそも野鳥を脅かさずに適切な距離から撮影すること自体にテクニックが要る。さらに光線状態や背景も考慮する必要があるわけで、図鑑写真には野鳥撮影におけるすべての基礎が詰まっているといえよう。

【飛翔写真】

オジロワシの飛翔。野鳥は風上に向かって離着陸するので、常に風向きと光線状態を意識する必要がある(撮影/中野耕志)
オジロワシの飛翔。野鳥は風上に向かって離着陸するので、常に風向きと光線状態を意識する必要がある(撮影/中野耕志)

 野鳥撮影の醍醐味といえば、飛翔の撮影だろう。飛翔写真を撮るうえで知っておくべきなのは「鳥は風上に向かって離着陸する」ということである。

 たとえば朝の撮影で東風が吹いていれば鳥の前面に光線が回っている写真を撮れるが、西風が吹いていれば鳥の前面に光線が回らないことを意味する。そのため風向きと光線状態は常に把握しておきたい。

 飛翔写真におけるもう一つのポイントは、翼の形にこだわることである。とくに鳥の側面から撮影した場合、翼を上げているか、打ち下ろしている場面がもっとも見栄えがよい。翼が水平だと体と重なってしまい、翼の存在感が薄れてしまうからである。もちろん顔が翼に隠れてしまわないことも重要なポイントだ。

【情景写真】

朝日とともに飛び立つマガンの群れ。鳥が点景でも存在感を損なわないよう、背景とのコントラストを保つ(撮影/中野耕志)
朝日とともに飛び立つマガンの群れ。鳥が点景でも存在感を損なわないよう、背景とのコントラストを保つ(撮影/中野耕志)

 野鳥は自然環境の中で暮らす野生動物であるがゆえ、種類ごとにそれぞれが好む環境との結びつきが非常に強い。その生息環境とともに野鳥を写しこむことは、作品群のバリエーションを増やすためにも欠かせない撮りかただ。

 この情景的野鳥写真でもっとも重要なことは、野鳥が小さくてもメインの被写体として主張していることである。周囲の風景を広く取り入れると相対的に野鳥は小さくなり、背景に溶け込みやすくなる。
 
 それを防ぐためには主役である鳥のシルエットが、背景と適切なコントラストを保っていることが絵づくりのポイントだ。この撮りかたでは風景写真的な要素が加わるので、背景や光線状態の美しさにこだわると作品としての魅力がより上がる。

写真・解説=中野耕志(なかの・こうじ)
1972年生まれ。野鳥や飛行機などの撮影を得意とし、各種専門誌や広告媒体などに作品を発表する。「Birdscape~鳥のいる風景」と「Jetscape~飛行機の飛ぶ風景」を二大テーマとし、国内外を飛び回る。近著に航空自衛隊F-4ファントム写真集『侍ファントム F-4 最終章』(廣済堂出版)、『飛行機写真の教科書』(玄光社)などがある。

※『アサヒカメラ』2019年12月号より抜粋。本誌では「撮影機材」「観察用具」の解説に加え、中野氏との撮影同行日記や撮影マナー問題の記事も掲載している。