カヲルさんは、ユーモアのある人だ。ジャガイモの作り方を聞いたら、不思議なことを言われた。

「『芋種盗んでも、子種は盗むな』って……。しかも、言った自分は大ウケしている。思わず、カヲルさんの若い頃の村の生活を想像してしまいますよね」

 そのころ、農業系の生活雑誌「季刊うたかま」でカヲルさんが人生相談を担当することになった。カヲルさんの魅力について瀬戸山さんがインターネットで発信していたものが、編集者の目にとまった。読者からの人生相談をカヲルさんに伝える役目は、瀬戸山さんが担当することになった。

撮影/高木あつ子
撮影/高木あつ子

 料理の味付けが義理の母と違うことに悩む女性には「家族に一人はボケ役が必要」、子どもが部屋を散らかしてイライラするという相談には「散らかしっぱなしでいい」と答える。思いついたことをそのまま話しているようでいて、厳しい自然の中で長い人生を歩んできた「村の女」の知恵があった。

「あるとき気がついたんです。『いーからかん』は、『ちょうどいい』っていう意味でもあるんだなって。レシピ本みたいに料理を作るのではなくて、季節やその日の気候で塩加減を微妙に調整する。おおざっぱにやっているように見えて、たくさんの経験から『ちょうどいい』を熟知している。こだわりもない。『こんなおばあさんに私もなりたい!』って思うようになりました」

「いーからかん」という魔法の言葉と出合ったことで、自分自身も変わっていった。

「炭焼きは、最初は『手伝っている』って考えていたんですけど、途中から『学ばせていただき、ありがとうございます』って思うようになったんです。今考えると、村の人から『仲間じゃない』って言われた時は、私が都会人の目線で上から意見を押しつけていたんですよね。それを気づかせてくれた。今では『仲間じゃない』って言われたことに感謝しています」

 そんな瀬戸山さんを、92歳になったカヲルさんは「何のこだわりもなく、村に入ってきてくれてうれしかった。娘のようだよ」と今でもかわいがっている。顔には年輪のように皺が刻まれている。夫の金次郎さんが亡くなった後は長男が炭焼きの仕事を引き継いでいる。カヲルさんは今年6月に大腿骨を骨折して今は仕事を休んでいるが、ケガをするまで小さな体で村の暮らしを続けてきた。

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カヲルさんが語る人生の秘訣