■苦みやクセのないシャキシャキとした食感がクセになる

 シャキシャキと食感がよく、そして食感の後に追いかけてくる菊の華やかな香り。苦みやクセもなく、甘酢との相性がとてもよく、味覚中枢が大いに刺激される。「菊がこんなにもおいしいなんて知らなかったね!」と一緒に旅した友人たちと、口福の感動を分かち合った。

 東京へ戻り、スーパーで「もってのほか」を見つけたので、おひたしを作ってみた。

知憩軒で食べた「もってのほか」のおひたし
知憩軒で食べた「もってのほか」のおひたし

【材料と作り方】
(1)もってのほか1パックは、へた(がく)から花びらをちぎる。芯の部分は苦いので除く。

(2)たっぷりのお湯に酢少々を入れ、花びらを加える。浮いてくる花びらを菜箸で沈めながら3秒ゆで、冷水に取って水けを絞る。

(3)しょうゆ大さじ1、砂糖小さじ1/2、酢小さじ1を混ぜる。器に菊と塩もみのきゅうりを混ぜて盛り、たれをかける。

ポイントは、(1)食用菊の鮮やかな色を出すためにゆで汁には酢を入れること、(2)ゆですぎるとシャキシャキ感がなくなってしまうので、長南さんのあの味に近づけるためにも、ゆで時間「3秒」は厳守する……こと。

 料理法はおひたしのほか、花に丸ごと衣をつけて天ぷらにするのも一般的だそう。

花びらの薄紫色が美しい「もってのほか」。「もって菊」とも呼ばれている
花びらの薄紫色が美しい「もってのほか」。「もって菊」とも呼ばれている

■山形の特産品、食用菊は美容効果もある健康食材

 菊は中国では古くから延命長寿の薬として、漢方の生薬としても使われてきた。乾燥させた花びらを使う「菊花茶」は、眼精疲労や頭痛解消効果があるとされ、中国では定番の漢方茶として親しまれているとか。お湯を入れたときに立ち上る、香りによるリラックス効果もあり、カフェインを含まないため子どもや妊婦も安心して飲めるという。

 そのほかにも、菊の花びらにはビタミンやミネラル類など、体に有効な成分が多いことがわかっている。βカロテンやビタミンC、葉酸をはじめとするビタミンB群などの抗酸化成分が豊富で、さらに紫花である「もってのほか」には、抗糖化作用もあるとされ、アンチエイジングの観点からも注目されているのだ。

 食用菊は紫花の「もってのほか」のほか、黄色い花びらの「阿房宮(あぼきゅう)」や「かきのもと」などの品種もあるが、「もってのほか」は香りや風味がよく、「食用菊の横綱」とも言われているそう。

 食用菊は山形の名産で、その生産量も日本一を誇っている。9月から店頭に並び始め、10月から11月ごろにかけて旬を迎える。スーパーで見かけた折には、ぜひその味を試していただきたい。

 また「知憩軒」がある鶴岡市は、日本で唯一の「ユネスコ食文化創造都市」に認定されている。海の幸、山の幸に恵まれ、行事食や伝統食なども数多く伝承され、独自の食文化が残っているからだという。行楽シーズンでもある秋、食用菊をはじめ、鶴岡の食文化を楽しむ旅に出かけてみてはいかがだろう。(スローマリッジ取材班・内田いつ子)